カブトガニの貢献(こんなにも面白い医学の世界)

[こんなにも面白い医学の世界  カブトガニの貢献]

(レジデントノート  2019年5月号)

岡山県西部の笠岡市には、「カブトガニ博物館」という施設があり、笠岡市の
カブトガニ繁殖地は天然記念物に指定されています。
カブトガニは、裏返してみるとまさに映画に出てくるエイリアンそのもので、
あまり愛される存在ではないかもしれませんが、実は医学に多大な貢献をしてくれています。

われわれの救急・集中治療の分野において感染症治療は最も重要な項目の
一つで、ICUに入院する重症患者は感染症のなかでも特に真菌感染症を
合併する確率が高いことがわかっています。
真菌培養で陽性と判定されてから抗真菌薬による初期治療を開始するまでに
12時間以上かかると生命予後不良との報告もあり、真菌感染症を早く診断して
治療を開始することは重症患者の全身管理を行ううえで大変重要です。

この真菌感染症を診断するための手段として、真菌の細胞壁成分である
β-Dグルカンの血中濃度測定があります。

このβ-Dグルカンの測定に使用するリムルス試薬はカブトガニの血液抽出物で
つくられているのです。

リムルス試薬中にはfactor Gという凝固系酵素が含まれており、
β-Dグルカンはそれを活性化させる作用があります。

血清β-Dグルカン値は特異度が高く、真菌感染症の除外診断に有用である
ことが示されています。

気を付けないといけないのは、β-Dグルカンは偽陽性が多いことです。
血液透析やヒト免疫グロブリンによる治療を行っている患者さんの血液には、前述のfactor Gと反応する成分が含まれているため、真菌感染症がなくても
β-Dグルカンは高値にみえてしまうことがあります。
そのためβ-Dグルカンのみを指標にすると真菌感染症がなくても抗真菌薬を
使ってしまうことにつながりかねないので、注意が必要です。

このように、カブトガニのおかげで感染症診療は大きな進歩をとげました。

ちなみに、カブトガニの血液の色は青く、大変毒々しい色をしています。
私たちの血が赤いのは鉄を含むヘモグロビンがあるためですが、カブトガニは
銅を含むヘモシアニンという色素をもつため青いのだそうです。

(著者:中尾篤典先生/岡山大学医学部 救急医学)

https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758116251.html

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