[こんなにも面白い医学の世界 芸能人に限らず、歯は命]
(レジデントノート 2019年8月号)
1990年代に「芸能人は歯が命」というキャッチコピーの歯磨き粉のCMが
ありましたが、8月1日は「歯が命の日」だそうです。
集中治療室での歯磨きを含む口腔内ケアが、呼吸器合併症を減らし予後を
改善する、という事実にもはや反論する人はいないでしょう。
このほかに、口腔内の衛生は糖尿病や動脈硬化にも深く関係しています。
食事のあと約8時間で,食べカスの中で細菌が増殖してプラーク(歯垢)に
なるといわれています。
つまり歯垢は細菌の塊なのですが、この歯垢が慢性的な炎症を起こし、
サイトカインという炎症物質が誘導されることで血糖を下げるホルモンである
インスリンの働きを阻害します。
そのため血糖が下がりにくくなり、インスリン抵抗性が上がってしまい
糖尿病になりやすくなります。
一方で、2型糖尿病患者は非糖尿病者と比較して、歯周病発症率が2.6 倍
高いことが報告されています。
糖尿病の患者さんは浸透圧利尿のため脱水になり口腔内が乾燥するので、
細菌が増殖しやすい環境をつくってしまいます。
さらに、唾液に含まれる糖分も増えるため、細菌は栄養が豊富な環境で
より一層増殖し、口腔内の炎症が進んで歯周病を発症しやすくなります。
このように糖尿病と歯周病はお互いに悪さをしあい、負のサイクルを
つくり出して症状が悪化していくのです。
その一方で、どちらかを改善することでもう片方も改善されるという報告も
多数あります。
例えば歯周病治療により3〜4カ月後のHbA1c が統計学的に有意に改善
するという結果が報告されています。
糖尿病の予防には運動、生活習慣の是正などがありますが、まずは手軽に
家でできる歯磨きを徹底することからはじめてみるのもいいかもしれません。
糖尿病は昔から現代にいたるまで全世界共通の生活習慣病といえるでしょう。
糖尿病の最古の記録としては古代エジプトのパピルス文書に糖尿病と
思わしき記述があります。
日本人で記録に残っている最初の糖尿病患者は藤原道長であり、織田信長や
明治天皇も糖尿病であったといわれています。
糖尿病の総患者数は現在も増え続け、重要な社会問題です。
糖尿病と歯周病は一見何の関連性もないように見えますが、この2つには
大きな関連性があり、病気を治療するうえで切っても切れない関係に
あります。
(著者:中尾篤典先生/岡山大学医学部 救急医学)
https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758116299.html
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