介護の苦痛、ITで変えた男性 物理学者から転身

[介護の苦痛、ITで変えた男性 物理学者から転身 
        生活リズムを即データ化 おむつ着ける人25%減の結果も]

(西日本新聞  2018年4月15日)


「苦痛」をわくわくに-。
結婚を機に3年前、特別養護老人ホームの仕事に転身した物理学者が、情報
技術(IT)の力で介護を変えようとしている。
福岡県福智町の社会福祉法人「福智会」特別顧問、吉岡由宇さん(34)。

食事や入浴など利用者のケアの記録を、職員が携帯端末を使って簡単に入力
できるシステムを開発した。
省力化だけでなく、実際に介護の「質」のレベルアップにつなげ、全国の福祉
関係者の間でも注目を集める新しい“科学的介護”の可能性とは。


兵庫県出身、大阪大で理論物理学を学んだ吉岡さん。
博士号も取得し、研究者として「数式や論文と向き合う」毎日だったが、
学部で知り合った妻と結婚することになり2015年、妻の実家が経営する特養
「福智園」で勤務を始めた。



<昼休みを削り手書きしていた「介護記録」>
きつい、つまらないなど「正直、介護に良いイメージを持っていなかった」
吉岡さん。
利用者との関係では誰とも競う必要がなく「優しさが無駄にならない仕事」と
ベテラン職員に言われ、目が覚めたような気がした。
介護の仕事を「誰もがあこがれ、胸を張れる職業にできたら」と考えた。

目を付けたのが、職員が必ず残さなければならない利用者一人一人の体調の
変化や一連のケアの内容などの「介護記録」。
入所者100人に対し職員は18歳~70代の約60人。
みな昼休みを削り、サービス残業もして紙に手書きしていた。

ただ機械的に記録するだけでは負担となり苦痛でしかない。
記録した情報も未活用。

単純に電子化、省力化するだけでなく、目指したのは「リアルタイムに手軽に
入力でき、そのデータを利用者へのケアや健康改善に生かせる」新しい
システムだ。
研究者としての知見を生かし、骨格の部分は約3カ月で完成させた。



<「次のケア」もスムーズに>
職員にはみな、スマートフォンと同じ大きさの携帯端末(iPodタッチ)を
持ってもらう。
時間がかかりストレスにもなる手数を極力減らすため、利用者の名札などに、
内蔵のカメラを向ければ即、その人専用のページなどにつながる2次元
コードをつけた。

画面には食事、排せつ、水分、入浴など必要最小限に絞ったボタンがあり、
ワンタッチで入力。
例えば食事を押せば献立が現れ、食べた量をメニュー別に記録できる。
水分の摂取量や体温なども同様だ。時間は約10秒。

ケアの直後に必ず記録することで、利用者のリアルタイムの情報が蓄積
される。
職員同士、端末でその時刻を共有でき、トイレや入浴に連れて行く順番など
「次のケア」もスムーズになる、という仕組みだ。



<おむつを着ける人は25%減>
すべての記録はパソコンで一括管理。
利用者それぞれの水分や食事量、排せつのタイミングを一目で直観的に把握
できるよう、チャート図で一覧できる。

「この人はこれぐらい水分摂取や食事をした○時間後にトイレが多い」と
分かり、おむつを外せるようになるなど、中長期的な介護にも生かせるように
なった。
結果、おむつを着ける人は25%減。
不足しがちな水分摂取量も増やし脱水症状による発熱も減った。

「職員の感覚が大きかった」(吉岡さん)従来の介護がデータに裏打ちされ、
仕事の効率もケア一つ一つの「価値」も改善された格好だ。



<「第1回社会福祉ヒーローズ」賞の6人に選出>
取り組みが評価され、吉岡さんは全国社会福祉法人経営者協議会が社会福祉の
第一線で活躍する若手を表彰しようと創設した「第1回社会福祉ヒーローズ」
賞の6人に選出された。

普通の言葉を理解し、介護記録の情報を会話するように携帯端末が応答して
くれるシステムの開発も続ける。


「障害者の介護、医療、保育なども含め、働く現場と情報工学の間をつなげて
いく人になりたい。あるべき社会保障の姿をしっかりイメージして技術、
知識を生かした仕組みをつくれば、関わる人みんなの意識も変えられる」
介護記録はまだ入り口。
理想の介護に向かい、ひた走る。




https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180415-00010003-nishinpc-sci





No tags for this post.
カテゴリー: い医療制度 パーマリンク