わきがの悩み(上)そのニオイ 本当にわきがですか?

[わきがの悩み(上)そのニオイ 本当にわきがですか?]

(読売新聞  2018年3月27日)
(コラム 五味院長の「スッキリ! 体臭で悩まなくなる話」)


頭のてっぺんから爪先まで、人間は様々なニオイを発しています。
そのなかで、ある特定の人だけに出るニオイがあります。
主にワキの下から臭うため「わきが臭」と呼ばれています。

医学的には「 腋臭症(えきしゅうしょう) 」と言いますが、病気では
ありません。
ひとつの個性です。

この「わきが」を正しく理解していない人が非常に多いのです。
本当はわきがではないのに「人に迷惑をかけているのではないか?」と
悩んだり、ワキの多汗をわきがと誤解して私のクリニックを訪れる人が
後をたちません。
誰にも相談できずに一人で悩んでいる人もいるでしょう。

しかし、ワキの多汗やワキのニオイがある人が皆わきがかというと、決して
そうではないのです。

わきがの原因は、アポクリン腺という特殊な汗腺です。
わきがは、アポクリン腺が「あるか、ないか」「多いか、少ないか」という
遺伝的な要因で決まり、個人差があります。
社会生活上で普通の汗臭とは違う特有なニオイとして、他人に強く感じられる
ようなケースを、わきがと呼んでいるのです。
ですから、アポクリン腺がある程度あって、自分や身近な家族は気がついて
いても、社会生活上、問題が起きていない程度なら、わきがとは言えません。

<患者の大半は「思い込み」>
本当は違うのに、わきがだと思い込む原因は2つあります。
その1つは、ワキの下が緊張時などの精神性発汗により、大量の汗をかき
やすい部分であることです。
精神性発汗からの汗は、一気にドッと出るためニオイ成分を多く含む
「におう汗」となりやすい。
もう1つは、ワキは両腕でいつも塞がれているため、汗が蒸発せずにこもり
やすく、ニオイ分子が濃縮されていくことです。
こうしたことから、強くなった通常の汗のニオイをわきがだと勘違いして
悩みます。
当院に来院される患者さんのほとんどは、そういう人です。


それでは、通常の汗と、わきがになるアポクリン腺からの汗はどのように
違うのでしょうか?

体温調節を目的とする通常の汗は「エクリン腺」から出ます。
皮膚の上で蒸発しやすいように濃度は薄く、通常はサラサラしています。
原料は血液ですので、 血漿を限りなく薄めたものと考えてよいでしょう。
汗のかきたては、ほぼ無臭です。

これに対し、アポクリン腺の汗は粘着性があり、たんぱく質、脂質、
ステロイド、アンモニア、色素成分など、ニオイになりやすい様々な物質が
含まれています。
ですから、かきたてから臭います。
その汗が 腋毛に付着して濃縮され、エクリン腺の汗と混じると一気に特有の
ニオイを発するのです。

<ニオイは世界に1つだけの個性>
アポクリン腺はニオイ専用の汗腺と言ってよいでしょう。
人類に進化する前の霊長類であった頃、このアポクリン腺のニオイは異性を
ひきつけるフェロモンのような役目をしていたのです。
ですから、わきがは本来、不快なものでも悪臭でもなかったのです。

わきが体質の人が多い欧米では、わきがに魅力を感じる人がいます。
ところが、わきが体質の人が少ない日本では、昔から普通の体臭とは異なる
「特有なニオイ」として感じられる傾向がありました。
遺伝的要因があるため、男女を問わず、悩みが深かったのです。

しかし、ここではっきりと申し上げましょう。
わきがは個性です。
厳密にニオイを分析すると、世界でワキのニオイが同じ人はいません。
自分だけの大切な体臭です。


実は、私自身がわきが体質で、若い頃は深刻に悩んだ時期もありました。
ですから、患者さんの悩む気持ちは本当によく分かります。
しかし、ある時から「わきがは自分だけの大切な個性ではないか」と
受け入れ、「ニオイ以外に、もっと大切なことがあるんだ」と前向きに考える
ことにしました。
それからは不思議と他人の鼻が気にならなくなりました。
意外にも、今ではニオイの専門医として、自信ありげ?に振る舞っています。
誰からも臭いと言われたことはありません。
たぶん、思い込みによる「イメージ臭」が改善したのでしょう。

わきがの悩みは、個性として受容することで驚くほど楽になります。
私の経験をぜひ参考にしてほしいと思います。



(五味常明 五味クリニック院長)


わきがの悩み(上)そのニオイ 本当にわきがですか?

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