心臓の穴は片頭痛を起こす

[こんなにも面白い医学の世界 第34回 心臓の穴は片頭痛を起こす?] (レジデントノート 2017年7月号掲載) 頭痛は、救急・総合診療でも多く遭遇する症候です。 なかでも、発作性かつ拍動性に起こる片頭痛は、人口の約8%にみられると され、しばしば悪心・嘔吐を伴うこともあるため、日常生活に支障をきたし 悩んでいる人が多い頭痛です。 脳の器質的病変を伴わないことから、なかなか有効な治療法も確立されて いません。 この片頭痛と卵円孔開存に深い関係があるという研究結果が2014年に発表 され、注目されています。 ご存じのように、卵円孔は胎児期に胎盤からの酸素を多く含んだ血液を右心房 から左心房を経て全身へ流すための通路です。 卵円孔は出生後には自然に閉鎖しますが、健常成人の15~25%は閉鎖せずに 開存したままといわれています。 通常、卵円孔が開存しても大きな問題は起きませんが、心臓に右から左への シャントがあることで、静脈系にある血栓が卵円孔を通過し、脳梗塞の原因に なることが知られています。 また、静脈系にある気泡が動脈系に移動して空気塞栓をきたし、潜水病の ような症状がでやすいことも報告されており、これらは循環動態からも、 容易に想像することができます。 しかし、片頭痛と卵円孔開存の関係については明確な説明がなされている わけではありません。 現時点では、セロトニンなどの血管作動物質や、その他の片頭痛を誘導する ような物質が卵円孔を通過し、肺でトラップされることなく直接大動脈に 入るためであると推測されています。 実臨床では、卵円孔を閉鎖する手術を行うと、高い確率で片頭痛が軽快する ことがわかっています。 ロンドンの病院では、月に5日以上頭痛を感じ、発作前に前兆がある比較的 重症の成人片頭痛患者(18~60歳)443人のうち、心エコーで卵円孔開存が 確認された147人を対象に、卵円孔を閉鎖する手術を実施する群(74人)と、 偽手術を行う群(73人)に割り付けて経過を観察したところ、片頭痛の 発作日数が半分に減った患者は、実手術群では42%、偽手術群では23%と 有意な違いがみられたと報告されています。 宣伝になりますが、我が岡山大学の赤木禎治准教授らのグループは、片頭痛の 患者さんで卵円孔開存がある方へカテーテル手術を積極的に行い、一定の 効果があることを示しています。 皆さんも、これで片頭痛の患者さんを診たときに、心エコーのオーダーを 出せますよね。 卵円孔開存と片頭痛、一見何も関係ないようなことに気づくことが、大発見を 生むこともあるのです。 (岡山大学医学部 救急医学  中尾篤典先生) https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758115896.html  
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