苦味はとても不思議な味覚

[苦さの効用] (北海道新聞  2008年) <胃腸の動き高める> 苦味はとても不思議な味覚です。 もちろん苦味は嫌な味覚です。 赤ちゃんに苦いものを与えると、身震いして嫌がりますね。 ヒトの正常なからだのしくみを解く生理学では、苦味は異物、毒物など 食べ物に有害なものが含まれているというサインとみなしています。 だから、子どもが苦いものを極端に嫌がるのは当然のことなのです。 苦さをはかる標準物質としては、キニーネというマラリアの特効薬を使い ます。 これはカクテルに使うトニックウオーターの苦味のもとでもあります。 そういえば、これを使うジントニックはほのかな苦味が魅力的ですね。 それになんといっても「ビールは苦味が利かなければ!」 そういうわけで、大人になると、なぜか苦味を好むようになります。 コーヒーやお茶の例を挙げるまでもありません。 苦いと自然と顔をしかめる反射が起こりますが、ビールを飲むとみんな顔を しかめながら喜んでいますね。 適度な苦味は、他の味覚を引き立てる作用があるようです。 でも、苦味を好むようになるにはかなりの経験が必要です。 苦味はまさに「大人の味」なのです。 ところで、ヒトは苦味を感じると、胃腸の運動が高まるという反射が存在 します。 実は、この反射を利用しているのが苦い胃薬で、苦味剤と呼ばれます。 苦味剤は、実験的に胃に直接入れても胃腸運動は全く変化しません。苦味を 感じることが大事なのです。 ですから、苦い胃薬をオブラートに包んだり、苦味を感じないうちに のみ込んだりしては、効果がないのです。 胃薬もしかめっ面をして、大人ののみ方で──。 (とうせ・のりつぐ:札医大医学部長)          No tags for this post.
カテゴリー: み味覚/味覚障害/風味障害, や薬剤・薬学 パーマリンク