アンチビタミンB6によるぎんなん中毒

[こんなにも面白い医学の世界 ぎんなんを食べ過ぎると?]

(レジデントノート 2018年11月号掲載)

何でも食べ過ぎはよくないですが、秋の味覚であるぎんなんの食べ過ぎは
しばしば問題になります。

以前、ある病院で救急当番を手伝っていたとき、特に既往がない男性が急に
痙攣を起こして搬送されてきました。
痙攣は一過性ですぐに治まったそうですが、最近仕事を辞めお酒ばかり飲んで
おり、栄養のバランスもよくなかったようです。

血液やMRIなどの検査をしても大きな異常はなく、酒に酔っていたので
入院してもらいましたが、後で聞くと「おつまみにぎんなんを炒って
塩を付けて食べていた」とのことでした。

秋になると、イチョウ並木の下にはぎんなんが落ちて悪臭が漂いますが、
エメラルドグリーンのぎんなんは大変美味です。

ぎんなん中毒は1708年に書かれた貝原益軒(江戸時代の儒学者)の書物にも
書かれており古くから知られていましたが、中毒物質がわかったのは
1980年代後半で、ぎんなんに多く含まれるアンチビタミンB6である
4’-O-methylpyridoxine(4’-MPN、メチルピリドキシン)が原因であると
いわれています。

ビタミンB6はグルタミン酸から抑制性神経伝達物質であるGABAができる
ときに補酵素として働きます。

ところが、この患者さんはお酒ばかり飲んでビタミン不足であったうえに、
4’-MPNがぎんなんによって過剰になり、ビタミンB6の作用が阻害されたため
GABAの合成ができなくなり、痙攣を起こしたものと思われます。

あとから測定したビタミンの値は正常下限よりもかなり低く、ビタミン剤を
点滴して治療が行われました。

4’-MPNを測定するのは難しく、この患者さんがぎんなん中毒であると断定
することはできないのですが、患者さんによると「枝豆と似ているしビールに
すごくあうから好んで食べていたが、この日はお茶碗に山盛りくらいの
かなり多くの量を食べた」とのことでした。

4’-MPNは熱に対して安定なので、茶わん蒸しに入れても焼きぎんなんに
しても失活しません。

ちなみに、いくつ食べたら中毒になるか、という問題はまだわかって
いませんが、報告例のほとんどは小児です。

死亡例には15粒から574粒の報告があり、中毒量は小児で7〜150粒、
成人であれば40〜300粒程度であるといわれています。

ぎんなんの塩炒り40粒くらいなら、お酒のつまみとかで出てきたら普通に
食べてしまいそうですが、枝豆やピスタチオ感覚では危ないようです。

https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758116169.html

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