[味覚のうち甘味だけを伝える神経細胞を発見]
(あなたの健康百科 2019年05月21日)
「生きるために食べよ、食べるために生きるな」とは、古代ギリシャの哲学者
ソクラテスの言葉だが、食の楽しみがあってこその人生という考え方も
また真である。
人にとって味覚はそれほど重要な機能である一方、解明されていない点が
数多い。
このたび自然科学研究機構生理学研究所と東京大学の研究グループが、
脳内で甘味を選択的に伝える神経を発見した。
さらに、その神経が活性化すると心地よいという感覚が生じること、つまり
甘い物を摂取すると脳が心地よさを感じることをマウスによる実験で明らかに
した(生理学研究所プレスリリース)。
<甘い物を口にすると脳は心地よさを感じる>
これまでに、舌の上には味を感知する味覚受容体があり、そこで得られた
情報が脳内の複数の中継点を伝達され味を感じることは分かっていた。
しかし、味覚情報が脳内の神経を伝わっていくメカニズムについては不明で
あった。
研究グループがこれまでに報告された研究データを精査したところ、
味覚情報を伝える重要な中継点である脳幹には味刺激に反応する神経細胞が
多く存在する部位があり、その神経細胞にはSatB2という転写因子(遺伝子の
転写をコントロールする蛋白質)が発現している可能性を見いだした。
同グループは味覚を伝える神経に存在するSatB2を味覚伝達神経の目印と仮定
して、マウスを使った実験でこれを発現している神経細胞(SatB2神経)を
除去した。
その結果、同神経を除去したマウスは塩味などには反応するものの、甘味への
反応をほとんど示さなくなることが分かった。
さらにいろいろな味の付いた液体を摂取中のマウスの脳活動を計測、SatB2
神経が甘味のみに反応することを発見した。
では、甘味を与えずにSatB2神経を刺激するとどうなるのか。
光による刺激で神経細胞を活性化するオプトジェネティクスという方法で
調べた結果、マウスは何も味の付いていない水をまるで甘みがあるかのように
積極的に摂取した。
この現象は、SatB2神経が活性化されると心地よさが生じること、同神経は
味覚としての甘味だけでなく、甘味の摂取に伴う心地よさを伝えることを
示すものと考えられた。
味覚の評価は、主に人の感覚による官能試験で行われているが、主観的で
ある、複数の味の評価が難しいなどの問題があった。
今回発見したSatB2神経の活動を測定すれば甘味の定量的な評価が可能になる
だけでなく、少量の塩で甘味が引き立つ隠し味など美味しさの評価にも
役立つという。
さらに、肥満者や2型糖尿病患者では味の好みが変化し甘い物をより好む
ようになることが知られているが、SatB2神経の調査によってその原因も
解明できるかもしれないと同研究グループは報告している。