ジギタリスの黄視症/バイアグラの青視症

[こんなにも面白い医学の世界 第39回 ゴッホの絵が黄色っぽい理由]

(レジデントノート  2017年12月号掲載)


先日、「朝起きたらものが黄色く見えるんです」と驚いて救急車を呼んだ
患者さんが来られました。
救急隊はさまざまな病院に交渉したけれど、精神科をあたってくれ、などと
散々断られたそうです。
患者さんはバイタルサインも安定しており、精神的にも落ち着いた方で、
頭部打撲などのエピソードはありませんでした。


ものが黄色く見えるのは「黄視症」といい、色視症の一種であり、大切な
原因の1つに薬物の副作用があります。
この患者さんは心房細動でジギタリスを処方されており、この副作用を疑って
コンサルトしました。
後にわかったことですが、やはり血液中のジギタリス濃度は高値であり、
内服を中止することによって色覚異常もなくなったそうです。


ご存知のように、ジギタリスはNa-K ATPaseを阻害し、細胞内にNaを蓄積
させ、結果的にNa-Ca交換が止まり、細胞内Ca濃度が上昇して強心作用を
示します。

生理学の復習ですが、網膜には視細胞があり、桿体細胞と色覚に関係する
錐体細胞に分けられます。
錐体細胞は、R錐体、G錐体、B錐体の3種類があり、それぞれR(赤)、
G(緑)、B(青)を感じます。
光が来ないときは暗電流(Naの流れ)が発生し脱分極しているのですが、
光が来るとその流れが止まり、色を感じるようになります。
ジギタリスはNaの流れ、つまり暗電流を止めて視細胞の機能不全を
もたらしてしまいます。
R錐体、G錐体は比較的薬物の影響を受けやすいため、赤色と緑色の色相が
知覚されにくくなり、その反動でものが黄色く見えてしまうといわれて
います。


ゴッホの作品には黄色が多く用いられ、本来緑であるはずの草木なども黄色く
描いていますが、これはゴッホはてんかんがあり、当時はジギタリスが
てんかんに対して処方されていたため、この副作用のせいではないか、と主張
する学者がいます。



ほかにも、有名なものでは、バイアグラの内服後にものが青く見える
「青視症」というのもあるそうです。
インターネットで調べると、バイアグラの錠剤に色をつける色素のためだと
いうデタラメの説明をしているものがありましたが、cGMPを介する錐体
細胞の働きの異常が原因であることが推測できます、



みなさんは「視界が黄色い」と訴える患者さんを、すぐに精神科にコンサルト
したりしないでくださいね。




https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758115964.html




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