女子アナの声が高過ぎる・・・女性の声を高くしたバブル崩壊

[女子アナの声が高過ぎる問題について<前編>]

(日刊スポーツ  2018年8月1日)


<本日のごのへのごろく「その声の 理由はひとつじゃ ないんです」>
「最近のアナウンサーは声が高くてダメ」。
大ベテランの先輩アナウンサーからよくいただくご指摘です。

確かに、地声よりも過剰に上ずった高い声で放送に出ている20代~30代の
女性アナウンサーはとても多くなっています。

声が高くなる理由は、“ぶりっ子”だから?
いえいえ、実は時代背景や社会情勢が大きく関わっているんです。

連載『ごのへのごろく』トーク編第39回、今回は「昨今の女性アナウンサーの
声の理由」です。



<声の低いアナウンサーは大先輩>
このコラムでもおなじみ、声と脳の専門家・山崎広子先生に取材しました。

山崎先生は著書の中でも、近年の女性アナウンサーの声の高さを取り上げて
います。

まず、声が高くなる理由を分析するにあたり、声の低いアナウンサーについて
考えていきます。

落ち着いた低い声のアナウンサー、例えば、吉川美代子アナウンサーです。
1977年、TBSに入社し、定年退職後の現在はフリーアナウンサーとして活躍
されています。
私にとっては、学生時代通っていたTBSアナウンススクールの、当時の校長
先生です。
(吉川先生を分析するのは恐縮ですが…時代を代表する低く落ち着いた声の
持ち主でいらっしゃるので、取り上げさせていただきます)



<時代を映す環境音フィードバック>
人の声は、「環境音フィードバック」が関係します。
これは、周りの声の高さ・低さに無意識に合わせてしまうという現象です。

1980年代、バブル期に入ると、一般女性の声は次第に低くなっていき
ました。
男女雇用機会均等法が成立し、女性もバリバリ働くようになったことなどが
その理由です。

それに伴い女性アナウンサーの声も低くなっていきました。

環境音フィードバックによるものと、当時の女性アナウンサーに関しては、
帰国子女が増えたこと、また背の高い方が増えたことも挙げられます。



<できる女性アナウンサーの声に>
また、吉川アナウンサーはかつて「女がニュースを読めるか」と言われる
ような時代があったと話されています。
男性と肩を並べて働くため、低く落ち着いた声でアナウンスするのは必然
だったと言えます。

山崎先生は吉川アナウンサーの声を「まさしくバブルの時期の“できる女性
アナウンサー”の声。身長もありますし、顔の骨格もしっかりしていて、
低い良い声の素質もあった」と分析されています。

このように、女性アナウンサーの声の高さは、時代を反映している面が
あります。



<女性の声を高くしたバブル崩壊>
バブル崩壊後、一般女性の声は次第に高くなっていきます。
社会が不安定になり、緊張感が高まり、全身の筋肉は硬くなって、固く
張り詰めた声になるので、声の高い人が増えていきました。

やはりそれに伴って、女性アナウンサーの声も高くなっていきます。

高い声の女性アナウンサー、例えばテレビ朝日の弘中綾香アナウンサーの声を
みてみましょう。
(他にも高い声の女子アナいっぱいいるのに、ごめんなさいね。弘中さんの
トーク内容が面白くて好きなので、それだけに声の高さが気になってしまい
まして)



<2000年代の女子アナの高さ>
弘中アナウンサーは1991年生まれ、2013年入社。
吉川アナウンサーより身長が低いので、地声は弘中アナウンサーのほうが
高くはなりますが、今放送で話している声は、地声よりもずいぶん高く、
うわずって聞こえます。

山崎先生は弘中アナウンサーの声について「いかにも2000年代の声。
こわばっているとともに、喉頭をしぼりあげて声道を短くしているのも確か。
作為的に感じられる」と分析されています。

私は弘中アナウンサーに会ったことはありませんが、弘中さん自身が打算的な
女性というより、とても器用な方なんじゃないかと思います。
あまりに器用だから、周りの男性ディレクターの期待に応え、また、高い声の
先輩アナウンサーの声を、見事に再現してしまっているのではないかと
みています。



<ごめんなさい。私の声も高かった>
何を隠そう、私自身が、局アナ時代、ナレーションで無理をして声を高く
出していた頃がありました。
新入社員時代から、入社4年目くらいまでです…。

今の声になるまでに、ずいぶん遠回りをしてしまいました。

私の場合は、新人の頃、放送で流れた自分の声を聞いて、ぼやっとした
不安定な声で、良い声の先輩方と比較して、愕然とした覚えがあります。
20~30代の先輩方は、高くて良い声だと思い、先輩のナレーションを
聞きながら、同じ音程で読む練習をして、意識的に高い声を獲得しようと
していました。

残念ながらこれが大きな失敗で、先輩は小柄で細い方が多く、地声からして
私より高かったんです。

私は身長が165cmあり体格も良く、もっと低い声のはずでしたが、当時は
見失っていました。



<ポイントはミラーリングシステム>
さて、「環境音フィードバック」で声は周りからの影響を受けますが、
ではなぜ、私や弘中アナウンサーは、吉川アナウンサーの声に似ずに、
比較的年齢の近い先輩に似るのでしょうか?

また、吉川アナウンサーは、なぜ後輩たちの声に引っ張られないのでしょう
か?

これは「ミラーリングシステム」によるものと考えられます。
脳には「ミラーニューロン」という共感や同調に関わるニューロンがあると
言われています(発見されたのが2000年前後で、異論もたくさんあり
ますが)。

たとえば人が刺された写真を見ると、なんだか自分も痛くなるような気が
したり、目の前にいる人が微笑んでいると、自分も気がつかないうちに
微笑みの表情筋が動く…これがミラーリングシステムでよく例として出される
ものです。



<目標とする先輩の声は鏡のように>
声も同じで、好きなタレントの声に無意識に似せてしまうことや、すごく
喉頭を締め上げて話している人と会話していると、自分の喉も苦しくなって
きます。

環境音フィードバックよりもミラーリングシステムは自覚的です。

声に似せようということではなく、相手に対して意識がフォーカスする、
つまり、比較的年齢の近い先輩のアナウンスを注意深く聴いている・参考に
することによって、声にミラーリングが起きるということ。

後輩に対しては正直どうでもよかったりする、だから意識がフォーカス
しない、そのためあまり似ることはない、ということです。


https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180801-00286457-nksports-ent


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