サーファーに納豆アレルギーが多い、その意外な理由

[サーファーに納豆アレルギーが多い、その意外な理由]

(現代ビジネス  2018年7月29日)


アレルギー患者が、気をつけなければいけないアナフィラキシーショック。

実は特定のアレルゲンだけでなく、異なる抗原でも起こりうるという。
これは「交差反応」と呼ばれる症状。
そのリスクは意外なところに潜んいる。



「殺人アリ上陸!」――。
2017年、神戸港で荷揚げされたコンテナからヒアリが発見され、日本中が
大騒ぎとなった。
ヒアリ(火蟻)は、その名の通り、刺されると火傷したような熱感を伴った
痛みを感じる恐ろしい生物。

毒性はスズメバチと同程度に強く、北米では毎年100人以上が死亡している。

連日、マスコミの報道では、毒性の恐ろしさが強調されていたが、対応に
あたった神戸市立医療センター中央市民病院・救命救急センターの有吉孝一
医師は、「怖いのはむしろ、毒性の強さよりも、アレルギーの交差反応による
アナフィラキシーショック(急性アレルギー中毒)でした」と語る。

「交差反応によるアナフィラキシーショック」というのは一体どういうこと
なのだろうか。

アナフィラキシーショックとは、アレルゲンとなる物質を摂取、接触または
吸い込んだときに起きるアレルギー症状で、特に症状が重いものを指す。
発症から短時間で症状が悪化することもあり、重篤な場合は5~30分で
心停止に至り、落命する危険性がある。

厚生労働省の調査によると、2001年から2013年までのアナフィラキシー
ショックによる死者は768人。
原因はハチ266人、食べ物40人。

心停止や呼吸停止に至る時間はハチが約15分、食べ物30分に対し、薬剤は
5分と短い。

有名なのは、ハチによるアナフィラキシーショック。
ハチは1回目より2回目に刺されたほうが重篤化しやすいという話を聞いた
ことがあるだろう。
これは一度刺されると、体内で抗体ができてしまい、二度目に刺された際に
体が過敏反応してしまうのだ。

では、同じアレルゲンにだけ気をつけておけばよいかといえば、それは違う。
恐れるべきは「交差反応」である。

これは、あるアレルギーを持っている人が、そのアレルゲンと似たような
物質が含まれた、別の食物や毒などに対してもアレルギー症状を起こして
しまう現象。
人間の免疫機能は緻密なようで、案外ざっくりしているものなのだ。

「ヒアリは、アシナガバチやスズメバチの毒と交差反応性があり、これらの
ハチ毒はムカデの毒とも交差反応をきたすことが知られています。つまり、
ヒアリに刺されるのが初めてであっても、その前にムカデに刺されたことが
あれば、アナフィラキシーを起こす可能性が高まる。逆にヒアリに一度でも
刺された人が、次にハチに刺された場合も危険です。だから救急としては、
ヒアリの刺された患者が運ばれてきた際には、アナフィラキシーショックに
対する備えが治療の根幹となります」(有吉医師)

交差反応がやっかいなのは、思いもよらない物質同士に、まさかの“似た者
同士”が存在することだ。

「実は意外な組み合わせでアナフィラキシーショックが起こることが、最近
分かりました。サーファーやダイバーには納豆アレルギーが多いんですが、
そこに交差反応が潜んでいたんです」(有吉医師)



<納豆アレルギーの8割がマリンスポーツ愛好家>
納豆は、日本が世界に誇る健康食品。

しかし、その納豆にアレルギーを示す人にはある共通点を持っていることを、
横浜市立大学附属病院皮膚科の猪俣直子医師は発見した。

もともと猪俣医師のもとには、納豆アレルギーの患者は多くやって来ていた。

ある日、猪俣医師は患者の多くが「日焼けしている」ことに気づいた。
その理由を聞いてみるとサーファー、スキューバダイバー、潜水作業員など、
ふだん海にいる時間が長い人が83.3%を占めたという。

 (どうやらマリンスポーツが関係していそうだ……)
察しがついたが、どう関係しているのかまでは分からない。

疑問が解けたのは、患者の1人が中華料理店でクラゲを食べて
アナフィラキシーショックを起こしたことがきっかけだった。
実はクラゲの触手には、納豆のネバネバ成分と同じポリガンマグルタミン酸
(PGA)が含まれている。

海でクラゲに刺されるたサーファーたちがクラゲアレルギーになり、交差
反応性がある納豆に対してもアレルギーを起こすようになったのだろうと
結論付けた。

納豆アレルギーの患者は多くはないものの、発症すると75%が、じんましんや
呼吸困難などの重い症状のアナフィラキシーショックに陥る。

しかもPGAは、納豆以外にも調味料として冷やし中華のスープや健康飲料、
スポーツ飲料などに含まれているほか、化粧品、石鹸、ヘアケア用品等に
保湿剤として添加されている。
最近では、それらが原因と思われる症例も報告されている。

「だから、サーファーやダイバーのみなさんは、もしもアナフィラキー
ショックになったら、マリンスポーツ愛好家であることを医師や救急隊員に
伝えてください。アレルギーの治療にはアレルゲンの特定が大切ですから」
(有吉医師)



<ダニアレルギーの人は甲殻類に注意>
納豆とクラゲ以外にも、交差反応性が分っている組み合わせは多々ある。

「ダニアレルギーを持っている人は、エビとカニにもアレルギーをもっている
ことが多いです」
そう有吉医師は教えてくれたが、これはちょっとショッキングかもしれない。

エビ、カニに対する甲殻類アレルギーは、花粉症ほどではないが、
ポピュラーで罹患者も多い。

甲殻類のアレルゲンはトロポミオシンといって、エビ、カニのほか、
ロブスター等のザリガニ類にも含まれているほか、甲殻類と同じ節足動物に
属するゴキブリ類、ダニ類で約80%、軟体動物のタコ類、イカ類、貝類で
60%程度、いずれも交差反応が確認されているという報告もある。

ゴキブリの場合は、ダニと同じように、糞や死骸がまじったチリやホコリを
吸い込むことで交差反応を引き起こす。
日常的にゴキブリに触れる機会はかなり少ないが、ダニアレルギーの人は、
ゴキブリをはじめ、エビ、カニ、タコ、イカなどの食物に要注意だ。



<バナナやアボカドで喉が痒くなる人は…>
医療の現場で特に問題視されている交差反応が「ラテックス・フルーツ
症候群」だ。

1980年頃から欧米諸国では、天然ゴム製品との接触によって起こる
「ラテックスアレルギー」で多数の死亡例が報告され、大問題になった。

天然ゴム製品は、手袋、カテーテル・絆創膏などの医療用具、炊事用手袋、
ゴム風船、コンドームなど、私たちの身の回りにもあふれている。

そしてゴムは、バナナ、アボカド、キウイ、栗などと交差反応がある。
もし、これらのフルーツやナッツ類を食べて、唇や舌、口の中が腫れたり、
かゆみやイガイガする感じがあらわれた場合には、ラテックスアレルギーを
疑った方がいい。
食べたことで、アナフィラキシーショックの引き金になることもあるからだ。

医療従事者、特にゴム製手袋を多用する手術執刀医・看護師、歯科医療
従事者、繰り返し手術やカテーテル治療等を受けている患者は特に危ない。

たとえば日本ラテックスアレルギー研究会は、次のような事例を報告して
いる。

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<ラテックスアレルギー患者がアナフィラキシーショックを発症>

30歳代の看護師が、業務で使用していた天然ゴム製のゴム手袋で手指に
かゆみが発現したため、皮膚科で検査したところ、ラテックスアレルギーと
診断された。

診断と同じ月に、栗きんとんを摂取したところ、発作性のせきと喘鳴出現した
ので、救急外来を受診した。

診察の結果、気道内の粘膜のみに発疹の症状があったので、アドレナリンを
投薬し、一旦は改善したが、その後、抗アレルギー作用薬を点滴したところ、
更に動悸、吐き気、意識混濁が起こった。

確認したところ、点滴に使用する管に一部天然ゴム製のゴム管を使用していた
ことから、栗と天然ゴムによるアナフィラキシーショックを起こしたと
疑われ、そのまま入院となった。(報告年:1998年、30歳代女性)

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ラテックスアレルギーを持っていたこの看護師は、交差反応がある
栗きんとんを食べたためにアナフィラキシーショックを起こしたのだ。

日本ラテックスアレルギー研究会によると、現在医療用具では、ほとんどの
製品でラテックスフリー化が進み、手術用手袋も、性能のよい非ラテックス製
手袋が販売されているが、交差反応を示すフルーツには気をつけなければ
いけない。

2017年3月、経済産業省は、消費者庁および厚生労働省と連携し、
ラテックスアレルギーとラテックス・フルーツ症候群について消費者への
注意喚起を行った。


年々患者数が増加し、かつ複雑化するアレルギー疾患。
神戸中央市民病院の救命救急センターには、2017年だけで160人もの
アナフィラキシーショック患者が搬送されたという。

そのほとんどは食物によるものだった。

アレルギー、特に「交差反応」はまだまだ未解明なことが多く、医者任せでは
自分の身を守れない。
なにせ毎日食べている納豆が、生命を脅かす存在になる可能性もあるのだから
怖い。

しかも、昨日までは平気だった食物に、ある日突然、反応してしまうことも
ある。


アレルギー体質の人は情報収集に努めるとともに、食物を口にする際は、
むくみやピリピリ等の異常が生じないか、自分自身に注意を払う必要がある

診断・治療・予防には、「いつ、何を食べたか」「どれだけの量を食べたか」
を記録する、『食物日誌』が推奨されている。

アレルギーっぽい症状があらわれたら即、日誌を持って専門医を受診しよう。

まずは、自分が何に対して反応しているのかを特定することが先決だ。


(木原 洋美)


https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180729-00056694-gendaibiz-bus_all



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[関連ページ]

マリンスポーツと納豆アレルギーの意外な関係 


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