乳がん細胞の休眠、仕組みを解明 米研究

[乳がん細胞の休眠、仕組みを解明 米研究]

(AFPBB News  2018年5月23日)

(発信地:パリ/フランス)

【5月23日 AFP】
乳がん細胞が体の別の部位で休眠状態に入り、後により困難な形で再発する
ことを可能にするメカニズムが特定された。

研究論文が22日、発表された。

研究チームは、ヒト細胞と生きたマウスを用いた実験を行い、薬剤や遺伝子
操作によってこのメカニズムを無効にすると、乳がん細胞を活動不能にし、
その拡散能力を阻害できることを明らかにした。

英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに掲載された研究論文によると、
今回の発見は乳がん治療法開発のための有望な標的を提供するものだという。

乳がんによる死亡の約90%は、がんが他の臓器や部位に移動する転移によって
起きる。

これまで専門家らを悩ませてきたのは、がん細胞が長期間にわたり潜伏できる
メカニズムと休眠中の細胞を目覚めさせる誘因の特定だ。

がん細胞の休眠は数十年に上ることもある。


論文の共同執筆者で、米国立がん研究所(NCI)の研究者ケント・ハンター
氏は、「今回の結果は、乳がん細胞が自食作用(オートファジー)として
知られる細胞プロセスを利用することで、患者の体内で長期間検出されずに
生存できることを示唆している」と話す。


オートファジーは、健康な細胞やがん細胞がストレスの多い低栄養の環境で
生き延びるために、細胞内の構成要素を再編成する際に発生する。
これにより、細胞は部分的に活動を停止し、冬眠に似た状態に入ることが
可能になる。


今回の研究成果は、現在の治療が外科手術や化学療法を施した後に残存する
乳がん細胞を根絶できないケースが少なくない理由を説明する一助となる。

従来の抗がん剤についてハンター氏は、「その多くは、細胞分裂中の細胞を
標的とするように作られている」「だが、休眠中の細胞は活発/頻繁な
細胞分裂を行っていないので、この種の抗がん剤に耐性を示すと考えられる」
と説明している。


また、休眠細胞が体内の他の部位に隠れていることも、細胞が放射線療法
などの局所的な治療法を免れる一因となる。



<潜伏中の細胞>
ハンター氏の同僚のローラ・ベラ・ラミレス氏率いる研究チームは今回の
実験で、休眠中の乳がん細胞をマウスに移植した。

最初の実験では、半数のマウスにはオートファジーを抑制する薬剤を投与し、
残りの半数にはプラセボ(偽薬)を与えた。

また別の実験では、オートファジーを制御する遺伝子を改変した。

実験の結果、どちらの方法でも「有意に」がん細胞の生存が減少し、その
拡散が制限された。


論文によると、オートファジーに頼ることができないと、がん細胞には
毒性物質が蓄積し、エネルギーの生産を担う細胞小器官ミトコンドリアでの
損傷が起きたという。


ただ、実行可能な治療法の開発はまだかなり先のことになりそうだ。

今後は、この治療法が人間の患者で有効かどうかを判断するための臨床試験を
実施する必要がある。

また、今回の結果を他の種類のがんに適用できるかどうかについても
まだ明らかになっていないと、ハンター氏は補足している。


http://www.afpbb.com/articles/-/3175624?cx_position=5


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