静脈血栓塞栓(エコノミー症候群)に夢奪われた高原直泰

[「死んでもいいから」母嘆願も…病に夢奪われた高原]

(日刊スポーツ  2018年4月17日)


「死んでもいい! W杯に出たい!」
そう訴えた選手がいた。
2002年ワールドカップ日韓大会メンバー発表前、静脈血栓塞栓症(通称
エコノミー症候群)に苦しんだFW高原直泰はその思いを日本サッカー協会に
伝えていた。

W杯には選手選考でもさまざまなドラマがある。
ロシア大会開幕までの連載「フットボールの真実」でW杯メンバー選考の
舞台裏を追った。


2002年5月。
日本協会は当時、東京・渋谷区にあった。
その一室。

高原の母静子さんは重い口調で切り出した。
「本人はグラウンドで死んでもいいと言っています。実力で選ばないなら仕方
ないのですが、もし病気のことで呼ばないのなら、もう1度考えてください。
今回のW杯は日本でやりますし、移動の負担もないはずです。ドクターからも
OKをもらっています。水もたくさん飲ませます…」
相手は強化推進本部の加藤彰恒部長。
選手の母による異例の嘆願だった。

その数日前、日本協会は高原が所属する磐田にこう伝えていた。
「実力はW杯メンバーに入っても全然おかしくないと思います。しかし生死に
関わる問題なので、メンバーから外さないといけません。これは現場では
なく、医事委員会(現医学委員会)の結論です。FIFAにも確認しています」

加藤部長は母と対面した席でも同じ内容を繰り返し説明し、理解を求めた。
それでも、看護師の母は息子の切実な思いを訴えた。
「死んでもいいんです」
涙をこらえながら、考えたくもない息子の「死」を何度も口にした。


その2カ月前。
22歳の高原はトルシエジャパンのエースFWとして存在感を示した。
敵地ポーランド戦で得点し、W杯メンバー入りを大きくアピールした。
その夜、現地ホテルで開いたスタッフミーティングで、指揮官は高原を高く
評価した。
W杯で高原が攻撃の軸になることも示唆したという。
サミア・コーチ、山本昌邦コーチも異論はなかった。

しかし、その翌日に不幸が襲いかかる。
ポーランドからパリまでの3時間のフライトを終えると、息するたびに高原の
左胸が痛んだ。
脱水症状と認識し、トランジットの間、パリから成田までのフライト中も水を
何度もがぶ飲みした。

帰国して胸の痛みに耐えながらJリーグ2試合をこなしたが、痛みが極限に
達し緊急入院した。
肺血栓。
選手生命が断たれる危機に陥ったが、W杯出場のことが頭から離れなかった。

日本協会は、代表合宿中に起きたことに責任を感じ、救済策を見いだそうと
した。
母の訴えの後、FIFAに再び問い合わせたが「大会3カ月前にそのような病気を
発症した選手はW杯出場を許可できない。W杯出場条件は、完治してから
6カ月以上たつこと」とくぎを刺された。


結局、高原の代わりに選出されたのはサプライズの中山雅史。
FWの軸となったのは柳沢敦だった。
日本はW杯初勝利を挙げ、決勝トーナメントに初進出したが、高原が軸と
なっていれば、また違う結果になっていたかもしれない。

高原は7月に復帰し、無念を晴らすかのように得点を重ね、その年にJリーグ
得点王とMVPを取っている。


この件について沈黙を続けた高原は、W杯閉幕から2カ月以上たち、ようやく
「(肺血栓で)全ての計画が崩れた」と短く語った。

W杯ドイツ大会のメンバーに入った際には「親に迷惑を掛けたから、ドイツ
ではみせたい」と親しい関係者に決意を打ち明けている。
(つづく)


(盧載鎭)


https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180417-00181865-nksports-socc


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