野球肘の発症率が圧倒的に低い野球王国、ドミニカ

[ドミニカ共和国 肘痛めぬ野球王国
            短時間の練習、楽しんで 群馬の医師、少年調査]

(毎日新聞  2018年4月10日)


多くのメジャーリーガーを輩出しているカリブ海の小国・ドミニカ共和国を
日本の医師が訪れ、野球少年に多い関節障害「野球肘」の発症率を調べた
ところ、日本に比べ圧倒的に低かった。

医師は「プロを目指すためには、成長期に体を壊さないことが大切」と、
学童野球における指導方法の見直しを訴えている。
【神内亜実】


医師は慶友整形外科病院(群馬県館林市)スポーツ医学センター長の古島弘三
さん(47)。

人口約1000万人にもかかわらず、第3回ワールド・ベースボール・
クラシック(2013年)を制したドミニカについて、古島さんは「学童野球の
指導法がいい」との評判を聞き、今年1月、スポーツドクター2人と現地を
訪れた。

5カ所の地区でエコー検査機器を使って小学生から高校生の選手約140人を
調査。
その結果、肘の外側の骨と軟骨がぶつかって破壊される離断性骨軟骨炎の
発症率は0%だった。
日本の同世代の発症率は2~8%とされ、慶友整形外科病院の検診で発見
されるのは3%だった。

さらに、内側の靱帯が引っ張られて骨の一部がはがれる裂離骨折の発症率は、
同病院で35%、日本では30~50%とされるのに対し、ドミニカは15%
だった。


野球肘は、投球時に肘に過度な負担をかけることで起こる。
日本では半数近くの小学生が肘の痛みを経験しており、世界的にも異常な
数値だという。

日本整形外科学会などによる2016年度の調査によると、中学生の練習日数は
7割以上が週に6〜7日と答えた上で、3割以上が土日の練習時間は7時間
以上と答えた。

一方、古島さんによると、ドミニカの小中学生の練習は週5日ほどで1日の
練習時間も3時間に満たない。

また「子どもが好きな」バッティングに重点を置き、日本に比べ投球数も
少ない。

ドミニカでは「けがをさせないために指導者がいる」との考えで、「子ども
たちがやりたいように自主的に練習し、野球を楽しんでいる」という。


損傷した肘の靱帯の代わりに正常なけんの一部を移植・固定する手術
(トミー・ジョン手術)を600例以上手がけた古島さんは「特に小学生の時は
骨が未成熟で運動神経の基礎が伸びる時期。いかに体に負担をかけずに運動
神経を向上させるか、現場の指導者が正しい知識をもって指導すべきだ」と
話している。



<ことば:野球肘>
骨や筋肉が未熟な子どもにみられる肘関節障害。
離断性骨軟骨炎は初期状態は痛みがないこともあるが、ひどくなると肘関節が
変形する恐れがある。
裂離骨折は学童期で、骨が未成熟な時期によくみられる。
重症化すると、将来、痛みが繰り返したり、投球できなくなったりする
可能性がある。


ボーイズリーグなどが加盟する日本中学硬式野球協議会は、中学生の投球を
「1日7イニング以内とし、連続する2日間で10イニング以内」などに
制限する指針を設けている。




https://mainichi.jp/articles/20180410/ddm/012/040/097000c





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