認知症リスクを上げる過度な糖質制限

[認知症リスクを上げる過度な糖質制限]

(毎日新聞  2018年4月1日)


ご飯やパンなどの炭水化物の摂取量を制限する「糖質制限食」をダイエット
目的で実践する人が増えているようです。
しかし、糖質(炭水化物)が分解されてできるブドウ糖は脳にとって唯一の
エネルギー源です。
むやみに減らせば当然、脳に悪影響があります。

糖質制限食の是非を、くどうちあき脳神経外科クリニックの工藤千秋院長が、
脳神経外科の観点から説明します。



<糖質制限が必要な2型糖尿病>
一定の糖質制限が必要な人たちがいます。
代表的な例が、血中のブドウ糖濃度(血糖値)が高くなる糖尿病患者です。
中でも、食事を含む生活習慣が発症に大きく関わっている2型糖尿病患者は、
糖質摂取量を抑える対応が必要です。

血糖値の高い状態が長く続くと、次第に血管が障害されます。
細い血管が障害されると、失明の危険がある網膜症、人工透析が必要になる
こともある腎症、手足の感覚がまひする末梢神経障害などが起こります。
太い血管が障害されると、脳梗塞や心筋梗塞といった直接命を脅かす病気も
起きやすくなります。



<低血糖とアルツハイマー病の関係>
ただし、いくら糖尿病であっても、糖質制限が行き過ぎると逆に問題が起こり
ます。

糖尿病患者は血糖値を下げる血糖降下薬を服用している場合が少なくありま
せん。
近年、血糖降下薬の服用時には、血糖値が下がりすぎる低血糖発作を起こ
さないようにすることが重要視されています。

低血糖を起こしている高齢者の糖尿病患者は、糖尿病にかかっていない人と
比べて、アルツハイマー型認知症発症の危険性が約1.6~2.4倍になることも
分かってきたのです。

脳細胞は加齢とともに減少します。
糖質が脳のエネルギー源であることから考えれば、脳細胞が減少している
高齢者の場合は、若者よりも低血糖が脳にダメージを与え、それが認知症に
つながるという理論は極めて妥当です。



<「糖新生」は非常措置>
最近は、健康な若年~中年層で、ダイエットを目的に極端な糖質制限を行って
いる人もいるようです。
しかし、全く糖質を取らない方法はお勧めできません。

極端な糖質制限で体内のブドウ糖の量が低下すると、ヒトの体は脂肪や筋肉を
分解することで糖質を作り出し、それをエネルギー源にします。
これを糖新生と呼びます。

確かに、脂肪や筋肉が分解されればダイエットはできるでしょう。
しかし、糖新生はあくまでも非常措置です。
停電時に自家発電機を稼働させるのと同じです。
自家発電機を動かすには燃料が必要です。

緊急事態を乗り切るために脂肪や筋肉を燃料に変えているわけですから、
長期間続ければ当然体に異常が生じます。

脳の働きは鈍り、めまいや冷や汗が止まらなくなり、最悪の場合は低血糖
発作で意識を失ってしまいます。
実際、糖質制限による低血糖発作で病院に救急搬送されたという事例も時折
耳にします。



<高齢者は「フレイル」の危険性が高まる>
高齢者が極端な糖質制限食を行うと、若者と比べて一層危険が増大します。

高齢者の多くは筋肉量が低下しています。
極端な糖質制限による糖新生が起きた場合、筋肉量はさらに低下し、著しく
心身機能が低下した状態の「フレイル」に陥りやすくなります。

「フレイル」になると、そうでない人と比べて死亡率が上昇したり、風邪を
こじらせて命の危険を伴う重度の肺炎にかかりやすくなったり、日常動作で
転倒・骨折の危険性が増大したりするなどさまざまな悪影響が起こります。



<総摂取カロリーの6割は糖質で>
1日に必要なカロリー摂取量は、年齢や活動性、病気の有無などによって
異なります。
しかし、カロリー摂取量の約6割は糖質から摂取することが望ましいとされて
います。
これは糖尿病の患者も同様です。

具体的にいうと、健康な人の場合は、茶わん1杯分のご飯を1日3回食べる
のが最も適切です。
活動量の低下している高齢者ならば1日に2杯程度でも構いませんし、
活動量が多い若年者ならもう少し多くても食べ過ぎとはいえません。
やや肥満傾向がある人ならば、心持ち減らすのがいいでしょう。

いずれにせよ、昨今の糖質制限食ブームに対しては、「過ぎたるは及ばざるが
ごとし」ということを強調しておきたいと思います。



(聞き手=ジャーナリスト・村上和巳)



https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180401-00000017-mai-soci





No tags for this post.
カテゴリー: え栄養医学, に認知症 パーマリンク