結核、日本はいまだ「中まん延国」

[結核、日本はいまだ「中まん延国」]

(家庭の医学  2018年3月23日)


<身近にある結核感染の危険>
かつては国民病といわれた結核。
もはや過去の病気だと思いがちですが、日本はいまだ「低まん延国」になって
いないのです。
3月24日は世界結核デー。
この機会に、身近にある感染の危険や予防について知っておきましょう。

1882年、ドイツのロベルト・コッホ博士が結核菌の発見を発表した日に
ちなみ、WHO(世界保健機関)では、毎年3月24日を世界結核デーと定めて
います。
この日に合わせ、世界各地で結核への意識を高め撲滅を目指すイベントなどが
行われます。

結核は結核菌が起こす病気です。
日本では明治時代以降、国民病といわれたほど全国にまん延しました。

1951年に「結核予防法」が制定され、死亡率は激減。

しかし、関心の低下、高齢者への感染、新しいタイプの結核菌の出現など
から、再び発症が増加傾向に転じました。
1999年には緊急事態宣言が出され、現在も常に感染拡大が懸念されて
います。

厚生労働省の発表によると、2016年新たに結核患者として登録された人の
数は、17,625人。
WHOの基準では、結核罹患率が人口10万人当たり10人以下で「低まん延
国」、11~99人が「中まん延国」、100人以上は「高まん延国」として
います。
先進国はロシアを除くほとんどが「低まん延国」ですが、日本は2015年
14.4、2016年13.9と、依然として「中まん延国」です。

日本で罹患者が減らない理由の一つは、高齢化の影響です。
新規登録結核患者数のうち80~89歳が約30%を占め、90歳以上も増加傾向に
あります。
結核菌は感染しても体の抵抗力があれば発病しません。
しかし、高齢者は免疫力が落ちることから、眠っていた結核菌が活性化
したり、新たに感染したりすることで発症しやすいのです。

このほか、薬に耐性を持った結核菌の登場、糖尿病やHIV感染との合併も
増加原因となっています。

近年では20~29歳の若い年代の増加も目立ちます。
若い世代では結核に対する免疫をもたない人が増えたことが原因と考えられて
います。

診断の遅れなどによる集団感染や院内感染も増加しています。
過労や栄養不足が続いている、不規則な生活を送っている、持病のあるという
人は、年齢にかかわらず高リスクです。

地域別の罹患率は、大阪府に次いで東京都と都市部に多いのも特徴です。
ネットカフェやサウナなど感染リスクの高い場がたくさんある、ホームレス
などの貧困層や外国人など社会的支援の届きにくい人が多いなど、このような
環境が都市部での患者増加の原因として挙げられています。

こうした状況から厚生労働省は2020年までに「低まん延国」になる目標を
定め、予防接種(BCGワクチン)の徹底のほか、以下のような対策に努めて
います。

(1)患者中心のDOTSの推進
DOTS(直接服薬確認療法)とは、患者が適切に薬を服用しているか医療
従事者が目の前で確認し、治癒までの経過を観察する治療方法。
保健所は地域のDOTSの拠点として、積極的に関係機関と調整を行う。

(2)病原体サーベイランスの推進
全ての患者の菌株を確保し、その検査結果を積極的疫学調査等に活用するよう
努める。


結核を減らすには、まず早期発見が重要です。
初期はかぜの症状に似ており、診断が遅れて感染が拡大することも少なく
ありません。
痰のからむ咳、微熱やだるさが2週間以上続く、体重が減ってきた、血痰が
出る、などの症状には要注意。
ただちに内科を受診しましょう。
重症化すると結核菌が全身に広がり、命にかかわる危険性もあります。

なお、結核と診断された場合は、一部の医療費が公費で負担されます。
患者本人の重症化を防ぐことはもちろん、感染の拡大を防ぐためにも受診を
急ぎ、完全に菌が消滅するまでしっかりと治療しましょう。



(監修:東京医科大学病院 総合診療科准教授 原田芳巳)



https://sp.kateinoigaku.ne.jp/kiji/125087/





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