ヘリウムガスを使った宴会芸に注意

[こんなにも面白い医学の世界 第40回 ヘリウムガスを使った宴会芸に注意] (レジデントノート2018年1月号掲載) 市販の変声用のヘリウムガスのスプレー缶を見たことがあると思いますが、 これを一気に吸い込んで話すと声が変わるので、余興などでよく使われます。 ヘリウムで思い出すのは、2015年1月に、アイドルの少女がテレビ番組の 収録中にパーティーグッズのヘリウム混合ガスを吸った後に意識を失い 倒れた、という報道です。 この少女は痙攣と意識障害があり、脳空気塞栓症と診断されましたが、軽度の 記憶障害が残ったのみでほぼ回復し社会復帰されているそうです。 この例では同時に広範囲の皮下気腫と縦隔気腫、気胸を認めており、 ヘリウムの毒性よりも鼻をつまんで一気に吸い込んだことによる気道内圧の 上昇によるものと考えられます。 ヘリウムはヘモグロビンと結合しませんし、生体の酵素活性などにも影響は なく、ヘリウムそのものの毒性はありません。 ヘリウム中毒は、純粋にガスを吸い込んだときに高濃度のヘリウムが肺の 酸素と置き換わることで、いわゆる窒息を引き起こすことに起因します。 したがって、治療としては高濃度の酸素を吸入させることが最優先されます。 市販の変声用のガスは、おおかたヘリウム80%酸素20%ですので、これの 吸入だけで死亡まで至ることはありません。 問題になるのは、風船を膨らますためのヘリウムガスで、これは100% ヘリウムです。 市販されているので容易に手に入ります。 最近は、ヘリウムを使った自殺が苦痛もなく確実という情報がネットで流れて いるようで、稀にヘリウムを使って自殺未遂となった患者さんが運び込まれ ます。 スイスでは自殺の権利が認められており、4人の方の自殺がヘリウム吸入に よって合法的に行われたと報告されています。 ドイツでは、頭にナイロン袋をかぶった状態でヘリウムガスを吸入して死亡 した23歳の男性の剖検例が報告されています。 オランダでは、ヘリウムによる殺人事件も起きています。 このように無色無臭のヘリウムは、意外と命を絶つことに使われていることは 知っておいてください。 ちなみに、死因となったガスの特定は、肺の中の気体をガスクロマト グラフィーで調べることで行います。 この際に、肺の中の気体を検出器に誘導するためのガスが必要で、これを キャリアーガスと呼ぶのですが、これにはヘリウムが使われることが多い ため、ヘリウム中毒の可能性があるときには、検査担当部署にその旨を伝えて おくことが必要になります。 (岡山大学医学部 救急医学  中尾篤典先生) https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758115988.html
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