「機能性発声障害」を専門家に取材する<後編>

[「機能性発声障害」を専門家に取材する<後編>]

(日刊スポーツ  2018年1月12日)


<本日のごのへのごろく「“テンプレ”を 上書きしましょう リハビリで」>
「機能性発声障害」。
声帯にはなんら問題がないのに、声が出しにくい脳の病気。

特に歌声が裏返る「歌唱時機能性発声障害」に悩むプロのボーカリストが
増えています。

ボイストレーナーの“りょんりょん”こと佐藤涼子先生が「イヤモニが要因の
ひとつではないか」と発信され、声の専門家・山崎広子先生は、なぜ
イヤモニが原因となるのかを解説してくれました。

では、どうすればいいのか。

連載『ごのへのごろく』トーク編第37回、今回は「機能性発声障害の治し方
とは」です。



<機能性発声障害の治し方を取材>
イヤモニの音が大きいと、「骨導音」が聞こえなくなり、ほんのわずかに
遅れた「気導音」のみを聞いてしまうことで、脳内に“バグ”が生じるような
状態になることを、前回まとめました。

そんな「機能性発声障害」の治し方についても、山崎先生に取材しました。



<リハビリはテンプレートの上書き>
まず、治し方はひとつではなく、人それぞれ合うものと合わないものがある
ので、いくつか試してみて、良さそうなものを繰り返し行うのがいいそう
です。

それを山崎先生は「テンプレートを上書きする」と表現されます。

たとえば、一度「声を出そうとすると喉がけいれんする」という
テンプレートが脳内に強く刻まれると、脳はそのテンプレートを取り出し
やすいので、“けいれんテンプレート”ばかり引き出してしまいます。

それが出てこないように、正しいテンプレートを上書きするのです。

テンプレートを上書きする方法は、「成功体験を積み重ねる」ことで
「脳に覚えさせる」というもの。



<方法1:イヤモニの音量調整>
イヤモニが原因であるプロのボーカリストは、イヤモニの音量を調整すると
いう方法があります。
大きな音で“返し”を聞くのが問題なので、“返し”の音を小さくするという
ことです。

さらに、イヤモニを片耳にして、「骨導音」が聞こえるようにする方法も
あります。



<方法2:耳栓をして歌ってみる>
イヤモニをはずし、耳栓をして、「骨導音」だけを聞いて歌うという練習
方法もあります。
そうすることで、骨導音がきちんと脳内に響くようになります。



<方法3:モニターを転がしにする>
「転がしモニター」(“返し”を流すスピーカー)を使う方法もあります。
イヤモニのように耳にダイレクトに遅れた音が聞こえるのとは違い、空気の
振動となるので、脳内の混乱が減ります。

また、イヤモニをしているときに聞こえなかった、ファンの方の声援が
きちんと聞こえるようになることが、安心材料となることが期待できます。


そして、心身を健康に保つことも大事です。



<大前提:心身を健康に保つこと>
ボイストレーナーの佐藤先生も、生徒が機能性発声障害を患うパターンと
して、風邪をひいている日や、精神的に落ち込んでいる日などの“声の出”が
悪い時に、無理矢理歌ってしまった日から始まることが多いとおっしゃって
います。



<脳は体を治すことに神経を送る>
山崎先生によると、そもそも「脳」というものは、心身ともに良い状態を
保とうとするものなのだそうです。

風邪をひく、あるいは筋肉痛が激しいなど、体に問題がある場合、「脳」は
「治そう」と忙しく働きます。

そんなときに、イヤモニを大音量で聞きながら無理に歌ってしまうと、
発声障害が起こりやすくなるのです。

きちんと寝て、しっかり食べて、健康を保つというのも、大事なリハビリ
です。



<寝ないとダメ・休みすぎもダメ>
ただ、休みすぎは良くありません。
声帯を1〜2日休めるのは大丈夫ですが、3日以上休んでしまうと、脳は
なまけるような状態になるので、継続的にリハビリを行う必要があります。

他にも、ハミングを応用したり、リズムを変えて歌うことで、強く刻まれた
悪いテンプレートを崩す、などの方法があります。



<本当に自分を治せるのは自分だけ>
「自分の最高のトレーナーは自分」と、山崎先生はよくおっしゃいます。
自分で「こうしたらうまくできた」、「今度はここまでやってみよう」と、
まずは自分自身で、身体と脳の状態を確かめながらトレーニングするのです。

これは機能性発声障害のリハビリに限らず、しゃべる人すべてに当てはまる
ことだと思いました。


https://www.nikkansports.com/entertainment/column/gonohe/news/201801120000384.html


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[関連ページ]

機能性発声障害・・・イヤーモニターが大きな要因 


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