機能性発声障害・・・イヤーモニターが大きな要因

[「機能性発声障害」を専門家に取材する<前編>]

(日刊スポーツ  2018年1月9日)


<本日のごのへのごろく 「便利さが 伴う危険な 脳の“バグ”」>
「機能性発声障害」…以前は聞かれなかった病名が、ここ数年、たびたび
報道されるようになりました。

歌うときに高音が裏返るような「歌唱時機能性発声障害」、あるいは、
しゃべるときも声が出ない・出にくい「機能性発声障害」に悩まされている
方が、特に歌手の方に増えています。

昨年末、ボイストレーナーの先生が「イヤモニが大きな要因ではないか」と
発信され、大きな話題となりました。

実際の原因は?
治すにはどうしたらいいのか?
専門家に取材した内容をまとめます。

連載『ごのへのごろく』トーク編第36回、今回は「機能性発声障害とは」
です。



<「機能性発声障害」の症状とは>
「機能性発声障害」は、声帯には全く異常がないのに、声が出なかったり、
出づらかったりする病気です。

「歌唱時機能性発声障害」は、歌っているときに、それまで出せていたはずの
歌声がうまく出せなかったり、中音域から高音域にかけて声がひっくり返る
ような症状が出ます。

近年、プロのボーカリストが多く発症しており、患っているけれど公表は
していないという方もいらっしゃいます。



<あの「りょんりょん先生」が発信>
昨年末、多くの有名ボーカリストを指導するボイストレーナー
“りょんりょん”こと佐藤涼子先生が、ブログを更新され、「大きな会場で
ライブをするプロのボーカリストが多く発症していること」、そして
「大きな原因のひとつに“イヤモニ”があるのではないか」と記載されました。



<「イヤモニ」が原因のひとつか>
「イヤモニ」とは「イヤーモニター」の略で、耳にはめる音響装置です。
演奏や歌声が、その最中に同時に聞こえます。
専門用語では“返し”や“返り”といいます。

ステージ上のどこにいても、演奏者やボーカリストと同じ“返し”を聞く
ことで、うまく演奏が合い、大きな会場でのコンサートが行いやすくなり
ました。

私も佐藤先生のブログを読み、確かにイヤモニは大きな要因ではないかと
思いました。

そこで、声の専門家で、このコラムにもご協力いただいている、山崎広子
先生に、「機能性発声障害」について、佐藤先生とともにお話を伺いました。

山崎先生はご自身が「失声症」に悩まされた経験があり、声と脳の関係に
ついて深く研究していらっしゃいます。



<山崎広子先生に聞く脳の解説>
まず「機能性発声障害」は、脳の問題だと教えていただきました。

脳から声帯の開閉や収縮のための“指令”を出しているところに“バグ”が生じ、
その状態で無理に発声を繰り返すことによって、その“バグ”が脳内に
“テンプレート”として刻まれてしまい、その“テンプレート”が声を出そうと
するたび、あるいは歌おうとするたびに出てきてしまうような状態なのだ
そうです。



<イヤモニが作る「脳のバグ」>
脳内に“バグ”ができる理由は、いくつかの要因が重なっていることが多く、
なかでも「イヤモニが原因のひとつであることは間違いない」と断言して
くださいました。

私はイヤモニで“爆音”を聞くこと自体が悪いのではないかと思っていたの
ですが、そうではなく、「骨導音」が聞こえない状態で、遅れた「気導音」を
聞くことが問題なのだそうです。
(なお“爆音”を聞くと難聴になる恐れがあるので、良いものではありません)



<両方必須「骨導音」と「気導音」>
「骨導音」とは、骨の振動で伝わる音です。
耳をふさぎながら「あいうえお」と言ってみてください。
耳の内側から自分の声が聞こえますよね?
それが「骨導音」。

また、「気導音」は、空気の振動で伝わる音のことです。
私たちは声を発するとき、「骨導音」と「気導音」を、両方聞いています。



<イヤモニが聞こえなくする骨導音>
自分の声の「気導音」は、外側から空気で伝わる分、「骨導音」より
ごくわずかに遅れるものですが、私たちは赤ちゃんの頃からその遅れを
無意識に処理しているため、問題がありません。

しかし、イヤモニから聞こえる「気導音」は、普段聞いている声とは違った、
不自然な遅れが生まれます。

さらに、イヤモニの音量が大きいと、「骨導音」は聞こえなくなります。

それまで、骨導音を聞くことで正常に働いていた神経伝達に異常が起こる…
脳は混乱し、“バグ”が生じるような状態になるということです。



<ほんの少し遅れてもしゃべれない>
2012年に「イグ・ノーベル音響賞」を受賞して話題になった「スピーチ
ジャマー」というスピーチを邪魔する装置があります。
これは、話した声を0.2秒遅らせて聞かせることで、次の発話ができなく
なる、というもの。

自分の声がちょっと遅れて聞こえてくる…想像するだけでも気持ち悪い
ですよね。

イヤモニは、「スピーチジャマー」ほどではありませんが、ほんの少しだけ
音が遅れて聞こえます。
わずかな遅れでも脳の処理は阻害されるのです。

私もいわゆる“返し”を聞きながらラジオでしゃべっていますが、思えば新人の
頃は違和感がありました。
今は慣れてしまいましたが、しゃべるだけでも違和感を覚えるのに、それが
歌になったら、ますます脳が疲労することは容易に想像できます。


https://www.nikkansports.com/entertainment/column/gonohe/news/201801090000324.html


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[関連ページ]

「機能性発声障害」を専門家に取材する<後編> 


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