最も長生きした将軍・徳川慶喜は豚肉好きだった

[最も長生きした将軍・徳川慶喜は豚肉好きだった]

(DIAMOND  2017年5月11日)
(長寿の食卓~あの人は何を食べてきたか~ 樋口直哉/小説家・料理人)


「豚一殿」というあだ名で呼ばれた人物がいた。
徳川幕府最後の将軍、徳川慶喜である。
豚というのは豚肉を食べることから、一は養子に入った一橋家に由来して
いる。

もちろん、いいあだ名ではない。
当時、日本人は公には獣肉を食べなかった。堂々と食べる慶喜を見て、世間の
人は驚き、こんな風にささやいたのだ。

しかし、慶喜は周囲の人の反応など気にしなかった。
横浜の港が開放されると、いち早く肉を取り寄せていたという。

新しいものが好きだった彼は、隠遁後も輸入された自転車や自動車をいち早く
入手し、趣味は写真だった。
これらのことからも慶喜が先進的な人間だったことがうかがえる。

ひ孫の慶朝氏によると慶喜はべったら漬けが好物で、冨貴豆も好きだった
らしい。
また、好奇心はいつまでも旺盛で、隠居後に興味があった玄米パンを女中に
買いに行かせた、という話もある。

また、晩年は硬い食べ物は避け、好きな漬物も多くは食べないようにして
いた。
和食の淡白なものを選び、タイ、カツオなどの刺し身やウニ、ナマコ、鶏卵の
半熟などを好んだ。
洋食は時々、食べる程度だが、食欲がないときは無理をせずにパンとミルク
だけで済ませることもあったという。

消化によい食べ物を選び、塩分摂取量に気を付ける。
カツオや白身魚、鶏卵は高齢者に不足しがちなタンパク質を摂取でき、ウニや
ナマコも最近、ビタミンやミネラル、アミノ酸などの栄養が効率よく摂取
できると注目されている食品だ。
きちんと栄養をとった上で、日本型の食生活を送る。
こうして見ると、慶喜の食卓は極めて現代的である。

政治的な野心を持たず、趣味を持ち、人生を楽しんだことも健康にいい影響を
及ぼしたのだろう。
こうしたこともあり、慶喜は徳川家の将軍の中で最も長生きした。


慶喜ほど評価が曖昧な人物も珍しい。
鳥羽・伏見の戦いで敵前逃亡のように江戸に帰ってしまったことが汚点として
よく挙げられるが、彼が進めた慶応の改革、大政奉還、そして勝海舟を用いて
江戸城の無血開城に導くなど、その働きが明治以降の近代化に大きく寄与した
ことは間違いない。
明治維新はその後安寧ではなかったが、江戸に戦火が及び、破滅的な内戦と
なっていれば今の日本はなかったからだ。

人は自らの地位に固執したり、野心に目がくらんだりすると時に判断を見誤る
ことがあるが、慶喜には時代が見えていたのだ。
江戸幕府の幕引きは先のエピソードからもわかるように、慶喜が他人の評価
など気にしない大人物だったからこそなし得た撤退戦だった。

進むことも重要だが、退くこともまた人生。




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