ハイムリッヒ先生のハイムリッヒ法初体験

[こんなにも面白い医学の世界 第31回 ハイムリッヒ先生のハイムリッヒ法初体験] (レジデントノート2017年4月号掲載) 食べものによる窒息は救急外来でよく遭遇します。 厚生労働省の報告によると、窒息の原因となる食べものはもちが最も多く、 ついでパン、米飯と続くようです。 一方、アメリカでは牛肉が最も多い原因で、食事が喉に詰まることを総称して steakhouse syndromeと呼んでいます。 ご存知のように、アメリカの牛肉は日本のようにジューシーで柔らかくない ので、さもありなんと思います。 患者さんの意識がすでにない場合には心肺蘇生が優先されますが、食べものが 喉に詰まった場合の救急蘇生法にはハイムリッヒ先生が考案したハイムリッヒ 法、背部叩打法が推奨されています。 ご存知のように、ハイムリッヒ法は、背後から両腕を腹部に回し、胸骨と 臍の間を上向きにすばやく強く圧迫する手技です、術者が、指をからめて 手を組むようにしている人もいますが、あれは誤りで、一方の手はこぶしに して、もう1つの掌をこぶしにかぶせるようにしておなかに添えるのが正しい やり方です たまに“肋骨の上から胸郭を締め付けるように行う”と誤解している人も いますが、胸郭を圧迫すると圧力が横隔膜を通して腹腔内に逃げてしまう ので、効果はありません。 ハイムリッヒ先生が書かれたオリジナルの論文を読んでみますと、ビーグル 犬の喉にハンバーガーを押し込んで窒息させ、胸部や腹部を圧迫して実験して おり、動物実験により考案された手法だということがわかります。 実際の開胸手術の際に、こぶしで患者さんの腹部を圧迫すると横隔膜が挙上 することも確認されています。 残念ながらハイムリッヒ先生は、2016年12月17日に96歳でお亡くなりに なったのですが、亡くなる半年前、アメリカのBBCニュースの報道によると、 シンシナティの老人ホームで食事を喉に詰まらせた87歳女性の背後に行き、 自らハイムリッヒ法を行ったそうです。 ご婦人は食べものを吐き出し、今もお元気にされているそうですが、 後にハイムリッヒ先生は、このとき人生ではじめて緊急時の患者さんに ハイムリッヒ法を実際に行ったことを告白しています。 施設の職員はこの歴史的な瞬間を感動をもって眺めたそうです。 ちなみに、胸腔ドレナージのときに使用するハイムリッヒ弁もこの先生の 発明です。 (岡山大学医学部 救急医学  中尾篤典先生) https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758115841.html
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