人はなぜキスをするのか

[こんなにも面白い医学の世界 第29回 人はなぜキスをするのか?] (レジデントノート2017年2月号掲載) 口付け、いわゆるキスは欧米人に限らず、人類のほぼ90%にみられる行為と いわれています。 しかし、どうして人間はキスをするのか、この医学的意味についてはまだよく わかっていません。 最も古典的な説としては、鳥にみられるように食べ物を咀嚼して子どもに 与えるという行為から派生し、文化として定着したといわれています。 また、あまり気持ちのよい話ではないですが、唾液の交換を通じて相手の 口腔内の味や臭いの状態を探ることにより、パートナーの健康状態を評価する ための本能である、という説もあるようです。 最近、女性のキスについては、思わぬ効能が報告されたので紹介したいと 思います。 皆さんよくご存知のKissing diseaseに関係したお話です。 サイトメガロウイルス(CMV)はヘルペスウイルスの一種で、どこにでも いるありふれたウイルスです。 ほとんどの場合、感染が起きても風邪症状でおさまるのが普通です。 ところが、よく知られているように妊娠中に初感染し胎児に感染すると、 難聴や脳障害などの重篤な症状を引き起こすことがあります。 妊娠前にCMVに感染していれば、免疫を獲得することが多いため胎児に 影響が出る可能性は0.5〜2.5%であるのに対し、妊娠初期にCMVの初感染が 起こると胎児に影響が出る可能性は高ければ50%ほどになるといわれて います。 現時点では,CMV感染を予防できるワクチンはありませんが、CMVは 唾液腺の上皮細胞に存在するので、妊娠前にキスによってパートナーから 感染し、妊娠中に初感染するという状況を回避しているのではないかと いわれています。 女性が、CMVの免疫を獲得しようとしてキスをしているとは思えないの ですが、世界にはこんなこと(といっては失礼ですが)を真剣に研究している 研究者が多くいて、彼らはこの仮説が本当かどうか、必死で調べている ところだそうです。 カップルが出会って最初のキスから最初のセックスまでの期間は、免疫が できるまでの大切な時間なのかもしれませんね。 ただし、これは女性の立場からの見解であり、男性がキスをする理由は 何も説明されていません。 しかし、男性はキスをするとオキシトシンの分泌が盛んになることがわかって いて、なかなか奥深いテーマです。 (岡山大学医学部 救急医学  中尾篤典先生) https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758115810.html
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