中華料理店症候群

[こんなにも面白い医学の世界 第26回 中華料理店症候群] (レジデントノート  2016年11月号掲載) 食欲の秋ですね。 ということで今回は「食」に関するお話をします。 王将という中華料理の店があって、われわれもよくお世話になりますが、 中華料理店症候群という、あまり有難くない名前の疾患があるのを知って いますか? これは、1968年に、中華料理を食べた人が、頭痛、歯痛、顔面の紅潮、 頸部や腕の痺れ、動悸などの症状を訴え、Chinese restaurant syndrome として権威ある医学雑誌であるLancetに掲載されました。 これは、中華料理に多く含まれる化学調味料のグルタミン酸ナトリウムが 原因ではないかと疑われ、翌年には動物実験で視床下部などへの悪影響が 指摘されたため、世界保健機関などにより1日の摂取許容量に制限が もうけられました。 グルタミン酸ナトリウムを使った調味料の1つが「味の素」で、うま味を出す ための化学調味料として知られています、 私が子どもの頃、味の素をおかずに大量に使うと、体に悪いからとしかられた ものですが、時期的にちょうどこの頃です。 実は、その後、アメリカで臨床試験が行われ、中華料理店症候群になった ことがある被験者にグルタミン酸ナトリウムを大量に含む食事を与えても 症状が再現されず、グルタミン酸ナトリウムと中華料理店症候群の関係は 証明できませんでした。 その後も追試が行われ、通常の料理に使う量では人間に対する毒性が確認 されず、その研究結果が2000年に発表され、悪名高い中華料理店症候群は 現在では学術的には否定されています。 しかし、グルタミン酸そのものには、血管を収縮させる作用があり、 「The MedlinePlus Medical Encyclopedia」では、今でもグルタミン酸 ナトリウムを含む食品を片頭痛の原因の1つとしてあげています。 日本救急医学会の専門医試験にも、急性頭痛をきたす物質として出題されて います。 グルタミン酸はAMPA受容体やNMDA受容体といったイオンチャネル型 受容体に作用してナトリウムイオンやカルシウムイオンの透過性を高め、 神経の興奮をきたすことが関係するといわれていますが、頭痛をきたす メカニズムについてはわかっていないそうです。 ちなみに、グルタミンも同じアミノ酸ですが、別のものです。 グルタミン酸はアンモニアを介してL-グルタミンに変換されますが、この L-グルタミンはよく先生たちも使う胃薬のマーズレン®の主成分です。 また最近、中華料理店で出される火鍋で一酸化炭素中毒が多く起こる ことから、これを、新しい中華料理店症候群、と呼ぶ人たちもいます。 (岡山大学医学部 救急医学  中尾篤典先生) https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758115773.html
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