水木しげる 食べることは生きることだ

[水木しげる、甘いもの好きでも“無病”のワケ]

(DIAMOND  2016年10月13日)
(長寿の食卓~あの人は何を食べてきたか~ 樋口直哉/小説家・料理人)


『ゲゲゲの鬼太郎』『悪魔くん』をはじめ多くの作品を残した漫画家、
水木しげる。
日本文化の特異的創造である〈妖怪〉に命を吹き込み、日本人に再発見させる
など、功績についてはあらためて語るまでもない。
書き込まれた背景にデフォルメされたキャラを融合させた画風は今でも
新鮮だ。

水木は自伝を多く残していることもあって、その半生は広く知られている。
少年時代に「のんのんばあ」という老婆の影響で妖怪に興味を持ち、戦争では
一兵士として南太平洋の激戦地ラバウルに送られ、空爆により左腕を失う。
帰国後、美術学校を経て、紙芝居作家、それから漫画家になり、60年以上の
画業を続けることになる。
91歳で新連載をはじめるなど長寿者だった水木の創作欲は衰えることが
なかった。


長寿の理由は一般的に遺伝と考えられている。
たしかに水木にも2人の兄弟がいるが、それぞれ長寿者だ。

しかし、それだけが理由ではない。
北欧で実施された双子を対象とした研究によると長寿における遺伝素因は
25%ほど。
残りの75%は生活習慣などの環境素因とされている。


では、水木はどんな生活を送っていたのか。
食生活では「人並はずれて胃の良い家系に生れた」「軍隊にいた時も腹が痛く
なったことはなかった」と言う彼は胃腸が丈夫な健啖家だった。

自らの食生活について語った著書『ちゃんと食えば、幸せになる』によると
90歳の時点で食事は1日2食におやつ。
酒を一滴も飲まない水木は甘いものに目がなく、ざらめ煎餅やどら焼きなど
お菓子をたくさん食べていた。
季節の果物も好きだったという。

ハイカラだった父親の影響か、ドリアやロールキャベツ、オムライス、
プリンやホットケーキといった洋食も大好物。
ハンバーガーは「ぼた餅の感じ」でぺろりと食べてしまう。
食欲は老いても旺盛だったようだ。

ごまは健康を意識して食べていたようだが、ここまで食べることができれば
もはや何が体にいい、悪いは関係ない。
食べることは生きることだ。


水木自身が健康の秘訣と考えていたのは睡眠である。
他の漫画家が寝ずに仕事をする中、水木は徹夜を一晩はしても二晩は続けない
ようにしていた。

「私は“睡眠力”によって傷とか病気を秘かに治し、今日まで“無病”である。
私は“睡眠力”は“幸福力”ではないか、と思っている」

実は睡眠と長寿の関係性についてははっきりとした結論は出ていない。
時々、1日7時間眠っている人が一番長寿である、という統計結果が
引き合いに出されるが、その研究でも現時点では誰にとっても7時間の睡眠が
いいと考える根拠はない、としている。

だが、睡眠不足が健康を損ねることは確かだろう。
睡眠不足はストレスの原因になり、生活習慣病のリスクを高める。

さらに最近の研究によると睡眠時間が少ない高齢者ほど脳が老化し、認知
機能が低下することもわかっている。


食事、睡眠とくれば最後は運動だが、水木は自宅から事務所まで1時間ほど
歩いていたという。
運動も認知症の予防には効果的だが、水木の場合は何より晩年まで続けた
仕事が老化を防いでいたはずだ。


NHK『知るを楽しむ』のインタビューで水木は現世のことを「地獄」と語って
いる。
戦争という現実によって左腕を奪われた水木の言葉は重い。
しかし、そう言いながらも別の話では「生きていることは楽しいし、
それだけで喜ばしい」と何度も強調している。
たしかに現実は残酷で、地獄かもしれない。
でも、生きるだけの価値はある。
水木しげるの作品と生き方はそんな生への讃歌に満ちている。




http://diamond.jp/articles/-/104467?_ga=2.115963907.465375347.1521505282-400150117.1521505282




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