ジェットコースターのあとの頭痛

[こんなにも面白い医学の世界 第19回 ジェットコースターのあとの頭痛] (レジデントノート  2016年4月号掲載) 僕が週1回当直している病院は、大阪のユニバーサル・スタジオ・ジャパン® のそばにあることで、なかなかユニークな患者さんがこられます。 昨年のハロウィン・ホラー・ナイトでは、ゾンビに扮したスタッフが お客さんに突き飛ばされ、肩関節脱臼で搬送されてきたのですが、肩を下げて 痛そうに歩く姿はリアルに怖いものでした。 このようなテーマパーク特有の患者さんのなかには、ジェットコースターに 乗ったあとに嘔気や気分不良のほか、頭痛を訴える方がいるのですが、これは roller coaster headacheと呼ばれ、注意が必要です。 ジェットコースターは、もちろん十分な検証に基づいた安全基準が厳しく 定められていて、安全性は保障されているはずです。 頭部に加速度計をつけた健常人にジェットコースターに乗ってもらって データをとった報告がありますが、Gの力だけでは頭に影響はなく、ジェット コースターは通常のスポーツ、例えばサッカーのヘディングと同様、あるいは それ以下のリスクしかない、とされています。 しかし、実際にはこれまでにジェットコースターの直接的な影響が考えられる 硬膜下血腫、くも膜下出血、髄液漏出症候群などの報告があり、影響は無視 できないようです。 いずれも、機械的な脳の振動、および血圧の急上昇が原因の1つだろうと いわれていて、硬膜下血腫については架橋静脈の過伸展が推測されています。 近年、ジェットコースターは最高時速240 kmまで高速化していますし、 高低や傾斜角度はますます激しくなっています。 どことは言いませんが、日本からも同一施設からの報告が3例報告されて いて、これはやはり危険を承知で乗るものなのでしょう。 ジェットコースターに乗ったあとに頭痛を訴えた患者さんは、外傷がなくても 頭部CTを撮っておく必要があるでしょう。 画像で異常がなくても、片頭痛のような症状が続く患者さんも報告されて いて、画像では指摘できない微細な病変があることも推測されます。 またこれらの患者さんはすべて頸部痛を訴えていることも重要で、だいたい 1時間後から10日までに症状が現れています。 年齢制限や「既往がある方はご遠慮ください」と書いてあっても乗りたい人は 乗りたいでしょうし、これを自己責任というのでしょう。 ジェットコースターが意外と危険な乗り物であることは認識しておいて いいのかもしれませんね。 (岡山大学医学部 救急医学  中尾篤典先生) https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758115667.html
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