貧血治療のはずがドーピング

[3年前、貧血治療のはずがドーピング リオ目指す女子マラソン・吉田香織選手] (東京新聞  2015年12月12日) 来夏のリオデジャネイロ五輪を前に、ロシア陸連の組織的関与疑惑など ドーピングをめぐる国際的な騒動が続いている。 日本にも禁止薬物を使ったと判定されて選手生命の危機に陥ったマラソン ランナーがいた。 2年間の選手資格停止を経て、復活の手掛かりをつかんだ選手にドーピング 検査の実際を聞いた。 (中野祐紀) 「競技で得た誇りを全て奪われましたね・・・」 リオ五輪女子マラソン代表の最初の選考会、さいたま国際マラソンで2位 (日本人ではトップ)になった吉田香織選手(34)=東京都練馬区=は 笑顔を消し、ゆっくりと言葉を選んで話し始めた。 自己ベストの2時間28分43秒でゴールして半月後の今月初め、練習場の 公園で「ドーピング」という言葉をぶつけた。 川越女子高(埼玉県)を卒業し、2000年に小出義雄監督率いる実業団の 積水化学に入社。 はねるような軽快な走りで「牛若丸」の愛称をもらい、国内外のマラソンで 優勝した競技生活は、移籍後の2012年冬、4位入賞したホノルル・マラソン で暗転した。 「いつも通りレース後に尿を提出しただけで、何の恐れも抱いていなかった」 ドーピング検査で、赤血球を増やし持久力を高める「エリスロポエチン (EPO)」の陽性反応が出た。 レース前、コーチに言われるまま受診した医師が「貧血の治療です」と打った 注射の中身が、ドーピング事件で悪名高いEPOだった。 吉田選手は確かに貧血気味で、EPO注射は腎不全や貧血の治療では一般的でも ある。 聞き取りに「知らなかった」と弁明し、故意ではないと認められたものの 「一流選手として許されない過失」と断罪され、資格を停止された。 競技の道を断たれ、2013年秋から半年、会社の配慮で語学研修として 南太平洋のフィジーに渡った。 毎日のように未明まで酒を飲み、ほとんど走らない日々を送って「落ちる ところまで落ちた」と振り返る。 情熱がもう1度燃え始めたのは、帰国後の2014年秋、出版社を経営する 支援者に「復帰を」と誘われたから。 同社でイベント開催や雑誌作りの仕事をしながら、公園で市民ランナーに 交じって練習した。 処分が明けた今春、公式の競技会に復帰し、五輪選考会で確かな結果を 出した。 さいたま国際マラソンの記録は選考基準より6分以上遅く、大阪国際女子、 名古屋ウィメンズマラソンと合わせた3レースで選ばれる五輪代表への道は 険しい。 大阪か名古屋でもう1度勝負し、夢の舞台に近づくつもりだ。 ドーピングの選手、と見られるのは分かっている。 「自力ではね返さなければ、いつまでもそういう目で見られますから」 <過失でも断罪/トイレ内も監視> 「刑法学者が『あり得ない』と目をむくほど厳しいのが、国際的なドーピング 規制」と指摘するのは、ドーピングに詳しい望月浩一郎弁護士。 吉田選手が注射を受けてドーピングとされたことを「不運だったとは思うが、 薬物が体内にあった結果が全て」と説明する。 故意か過失かは処分の有無に影響せず、責任能力に年齢も考慮しない。 ドーピングによる不正を防ぐため、五輪など国際大会に頻繁に出場するトップ レベルの選手は競技団体を通じて日本アンチ・ドーピング機構(JADA)の リストに登録され、競技会以外にも事前通告なしの検査を受ける仕組みだ。 選手は4半期ごとに、インターネット上のシステムに3カ月分の居場所を 登録。 自宅や練習場所、遠征中全ての日の宿泊先を部屋番号まで明記し、JADA などの担当者が訪れれば、即座に尿や血液の採取に応じる。 トイレの中でも同性の検査担当者が監視し、尿が本当に本人の体から出ている かを確認する。 体調不良などを理由に拒否もできるが、1年半の間に3度重なると違反と みなされ、資格停止の可能性がある。 <ドーピング> 運動能力を向上させるために薬物などを使用する行為。 ステロイド系の筋肉増強剤や利尿薬、赤血球を増やして持久力を高める エリスロポエチンなどのホルモンが禁じられている。 競技会前後を中心に採尿や採血で検査し、違反があれば選手資格の停止や 記録取り消しの処分がある。 五輪では1968年冬季のグルノーブル大会から検査が始まり、これまでに 日本選手の陽性・失格は出ていない。 http://www.tokyo-np.co.jp/article/sports/list/201512/CK2015121202000267.htmlNo tags for this post.
カテゴリー: げ芸能人・有名人, スポーツ医学,  ドーピング, や薬剤・薬学 パーマリンク