七面鳥を食べると眠くなる?

[こんなにも面白い医学の世界 第14回 七面鳥を食べると眠くなる?] (レジデントノート2015年11月号掲載) アメリカでは11月の第4木曜日に感謝祭(Thanksgiving Day)を祝います。 これは一大イベントで、イギリスからアメリカに移り住んだ人たちの最初の 収穫を記念するものだそうです。 この日には家族が集まり、中に詰め物をした七面鳥(Turkey)の丸焼きを 食べるのが一般的です。 感謝祭の日に、おなかいっぱい食事をしてソファーで眠る人をTurkey comaと いい、七面鳥に含まれる眠気成分のためだといわれていますが、これは本当で しょうか? 七面鳥の肉には、トリプトファンというアミノ酸が大量に含まれていて、 これは血液脳関門を通過して脳内に入り、セロトニンの原料になります。 そして、セロトニンから松果体でメラトニンが合成され、これが眠気の原因で あるといわれています。 しかし、実際は七面鳥よりもチキンの方が多くトリプトファンが含まれて いて、その他の食べ物、例えばミルクや魚、ゴマや豆類、穀物にも トリプトファンは含まれるため、感謝祭の日の眠気を七面鳥のためと 考えるのは無理があります。 むしろ、単に感謝祭の日には家族が集まり、マッシュポテトやパイなどの 炭水化物もたらふく食べ、お酒も飲んでリラックスするために眠くなるので しょう。 医学の文献で、感謝祭と七面鳥の関係について記載しているものはありま せん。 ところで、セロトニンからメラトニンをつくるのは、アリールアルキル アミン-N-アセチルトランスフェラーゼという長ったらしい名前の酵素 ですが、この酵素は日光によって活性化し、暗くなると不活化します。 実際に20歳代の学生を対象とした実験で、トリプトファンを多く含む朝食と 日中の十分な日光浴が快眠をもたらすことが報告されています。 興味深いことに、この研究で、トリプトファンをあまり含まない朝食には サラダやオレンジジュース、トリプトファンを多く含む朝食には鮭や納豆と いう日本の朝食が使われていて、日本の朝食にはトリプトファンを多く摂取 できる先人の知恵があったことがわかります。 (岡山大学医学部 救急医学  中尾篤典先生) https://www.yodosha.co.jp/rnote/trivia/trivia_9784758115599.html
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