膵臓がんの強さ、ほかのがんとの違いは何か

[膵臓がんの強さ、ほかのがんとの違いは何か]

(Medエッジ  2015年8月24日)(西川伸一)


<悪性度とオートファジー>
他のがんと比べた時、膵臓がんの悪性度は群を抜いている。

私が医師として働いていた時から今まで、治療成績はほとんど変わっていない
のではないだろうか。



<膵臓がんだけなぜこれほど悪性?>
発がん過程だけを見ていると、「ras」など他のがんとオーバーラップする
ところが多く、なぜ間質反応が強く、血管に乏しいのに、これほど悪性なのか
よく分からなかった。

最近、わが国の大隅良典さんらが発見した「オートファジー」と呼ばれる
細胞内の分解機構を抑制すると膵臓がんの悪性度が低くなると報告され
始めた。

一方、色素細胞や破骨細胞の発生に関わるとして研究されてきた
「MITF/TFE3」系が、最近オートファジーに関わると脚光を浴びてきた。



<膵臓がんだけの違いを見つける>
今回紹介するマサチューセッツ総合病院からの論文はこの2つの流れを合流
させた研究で8月20日号の有力科学誌ネイチャー誌に掲載された。
タイトルは「オートファジー・リソゾーム機能の転写調節が膵臓がんの代謝を
動かしている」。


既に述べたように、膵臓がんではオートファジーの働きが高まり、物質の
分解に関係した「リソゾーム」活性が上がっていると知られていた。

そこで、この経路を動かすと分かってきた「MIT/TEF」ファミリー分子の
働きを調べると、他のがんではほとんど上昇がないのに膵臓がんでは高く
なっていた(もちろんもともとこの系が働いているメラノーマでは高いが)。



<がんを増やす流れを解いていく>
実際、膵臓がんではこれら「転写因子」は、オートファジーに関わる遺伝子
上流に多く結合している。

「MITF/TEF3」という分子の働きを抑制すると、オートファジーは抑制
され、さらに細胞の増殖も止まった。


なぜMIT/TEFに関係したタンパク質(ファミリー分子)の働きが高まって
いるのか。
次にそこを調べている。

もともとこのMIT/TEFとは、「TORC1」というタンパク質の影響で、遺伝
情報を持つ「核」の中に移動できないよう調節されている。

膵臓がんでも確かにTORC1が働いているが、それでもMIT/TEFファミリー
分子が核の中に移動できている。

この原因を探ると、輸送システム「インポーティン」が上昇して核の中に
導いていた。



<がんが活発になる秘密>
MIT/TEFファミリー分子の核の中への輸送異常によりオートファジーが
上昇していた。


オートファジーが上昇するとなぜがんが活性化されるのか。

細胞内の代謝状態を調べると、分解の促進が起きて、細胞内のアミノ酸濃度が
上昇していると見つけ出した。
細胞周囲のタンパク質を取り込み、分解していくという働きが活発になって
いた。

膵臓がんでは細胞内でのアミノ酸上昇をうまく和らげて、栄養の少ない場所
でもアミノ酸をうまく処理している。


上流から下流まで具体的なネットワークを決めた研究で、これだけ長い回路が
明確になると、がん抑制の分子標的の開発も進むだろう。



<まるごと調べて、関係性まで調べる>
この研究は、独創的というより、これまで考えられてきたさまざまな経路を
きちっとつないで見せた点が評価できる。

最近「オミックス」ばやりで、オミックス解析をしてそれでおしまいという
研究が増えてきた中で、関連する分子の間の相互作用を段階的につないで
いく。

オーソドックスな研究は逆に新鮮に思えるほどだ。


いずれにせよ、実際の膵臓がんでこの経路を標的にしたとき何が起こるのか、
早く見てみたい。



https://www.mededge.jp/a/canc/18051




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