[乳児股関節脱臼を見逃すな]
(共同通信 2015年4月21日)
<診断遅れで治療難航><健診体制の再構築を>
赤ちゃんの脚の付け根の関節が外れてしまう先天性股関節脱臼。
国内ではかつて乳児の1~2%にみられたが、1970年代に始まった予防
啓発の効果により発生頻度は10分の1程度まで低下した。
ところが近年、歩行開始後にようやく診断され、治療に難渋するケースが
全国的に増えている。
患者の減少で医師や保健師の認識が薄れ、0歳児の健診で見逃されるように
なったことが背景にあるという。
<調査で裏付け>
「予想以上に診断の遅れが増えている。あぜんとしました」
日本小児整形外科学会 による先天性股関節脱臼の実態調査をまとめた、
あいち小児保健医療総合センター の服部義センター長は驚きを隠さない。
10年ほど前から、各地の小児整形外科医から診断遅れの症例が多いとの指摘が
相次いでいた。
学会は2013年、実態を探るため全国の大学病院や小児病院、小児療育施設
など1987施設にアンケートを実施し、782施設から回答を得た。
それによると、2011年4月~2013年3月の2年間に股関節脱臼と診断された
子どもは1295人で、うち199人(15.4%)が1歳以降に診断されていた。
さらにこのうちの36人は、何と3歳以上での診断だった。
注目すべきは、1歳以降に診断された199人の大半が公的乳児健診を受けて
いたにもかかわらず、異常発見に至らなかったことだ。
「健診での見逃しが裏付けられました」と服部さんは話す。
<後天的要因>
この病気は「先天性」と言いながら、実は出生時に脱臼していることは
少ない。
脱臼の準備状態で生まれたところに、おむつの当て方や抱き方、向き癖などの
後天的要因が加わって起きる。
患者は女の子が男の子の5~9倍と圧倒的に多い。
現在の発生率は千人に1~3人。
予防啓発の効果に加え、女性の体格向上で胎内のスペースが広くなった
ことや、妊婦が腹帯をきつく巻いて重労働を強いられるような社会環境で
なくなったことが発生率低下につながったと考えられている。
生後3~4カ月の乳児健診で見つかれば、ほとんどが「リーメンビューゲル」
というベルト状の装具を3カ月程度装着して外来通院で治せる。
しかし、発見が遅れると脱臼したまま骨の成長が進んでしまうため、治療は
どんどん難しくなる。
1歳を過ぎると入院して脚を引っ張る「けん引」という治療が必要になり、
それでもだめなら手術が避けられない。
放置すれば将来、痛みや日常動作の制限が生じる変形性股関節症に進行する
恐れがある。
<簡便にチェック>
それだけに早期発見が重要だが、現状は学会調査の通りだ。
「患者数が激減し、医師や保健師が日常的に扱う病気ではなくなりました。
診たことがないから知識もない。少子化で乳児健診の予算を削る自治体も
あり、健診体制自体が脆弱化しています」と信濃医療福祉センターの朝貝芳美
所長は指摘する。
危機感から朝貝さんらは健診用のチェック表を作成、関係学会を通じて普及に
乗り出した。
(1)股関節の開き具合
(2)太ももや鼠径部のしわが左右の脚で対称か
(3)家族歴
(4)女の子か
(5)逆子で生まれたか
の5項目で簡便に判定できる内容で、脱臼の疑いがあれば、さらに詳しい
検査が勧められる。
また「脚を締め付けるおむつや洋服は避ける」「両脚をM字型に開いて正面
から抱く『コアラ抱っこ』をする」といった予防法を親に周知するため、
パンフレットの配布にも取り組んでいる。
「数は減っても決して過去の病気ではありません。予防法の徹底と健診体制の
再構築が必要です」と朝貝さんは話している。
(共同通信 赤坂達也)
http://www.47news.jp/feature/medical/2015/04/post-1277.html