戦国の勝者、徳川家康から学ぶ肉食の滋養

[戦国の勝者、徳川家康から学ぶ肉食の滋養]

(DIAMOND  2014年5月8日)
(長寿の食卓~あの人は何を食べてきたか~ 樋口直哉/小説家・料理人)


食をめぐる言説は目まぐるしく変わる。
去年、厚生労働省は13年ぶりに食生活の指針を見直したのだが、そのなかで
特に注目されたのは高齢者に肉の摂取を薦めたことだ。

日本人の平均寿命は諸外国と比べても長いが、安心はできない。
当然のことではあるけれど、寝たきりにならずに日常生活を健康に過ごせる
健康寿命は平均寿命よりも短い。
統計的には男女共に10年余りをベッドの上で過ごしているという数字が出て
いる。
健康寿命が伸びれば社会保障負担の軽減も期待できるのだ。

寝たきりになる原因は大きく2つ。
脳卒中と転倒による骨折である。
肉食が勧められたのはその対策として、だ。

動物性タンパク質の摂取は血管を強くし、筋力の低下を防ぐ。
東北大学大学院医学系研究科の調べでは、肉類摂取していない人はしている
人に比べて2.8倍も転倒リスクが高かった。

「そんなことはない。肉を食べてこなかった日本人には魚と野菜だけの
伝統的な和食が一番健康にいいのだ」
そんな意見もあるが、本当にそうだろうか?

そもそも『伝統的な和食』がなにを指しているのか、という問題は置いて
おくとして、独立行政法人、国立健康栄養研究所が出している『国民栄養の
現状』というレポートを読むと、戦後50年で日本人の栄養状態が戦前や戦後に
比べてすこぶる改善されているのがよくわかる。
だからこそ平均寿命も右肩上がりだったのだ。
食生活の欧米化によって日本人が不健康になった、という意見は、言って
みれば半分正しく、半分誤っているのである。


ところで戦前よりもさらに前の人々はどうだったのだろう?
例えば江戸幕府を開いた徳川家康はキジやツルの焼き鳥を好んだ、という。
平均寿命が37~38歳であった当時、75歳まで生きた理由の1つとして適度な
動物性タンパク質の摂取を挙げる研究者は少なくない。

肉は決して体に悪いものではない。
大豆や魚にもタンパク質は含まれているが、効率性という点で優れているのは
肉だ。
高齢になるにつれて食事量は減っていく。
つまり少ない量でいかに効率よく栄養素を摂取するか、というのが鍵になって
くる。

もちろん、栄養バランスが大事なのはいうまでもない。
大名になれば白米を食べる武将が多かったなかで、家康の主食は生涯、麦飯
だった。
麦飯はミネラルや食物繊維が豊富で、何より食べるのに咀嚼が必要だ。
家康には現代よりもずっと硬かった肉をかめる咀嚼力が備わっていたわけで
ある。


肉を食べましょう、という動きが始まったのは、国がメタボ対策を推し進めた
ことで、肉を避ける人が増えたからだ。
その結果、タンパク質不足の高齢者が増えた。

このように1つの課題を解決しようとして、別の問題が出てくる関係性を
トレードオフという。
食生活において片方がよくて、もう一方が悪い、ということはあり得ない。
食べることは必要だが、そこには常にリスクもある。
何ごともバランスが大事ということだ。


そういえば家康が最後に勝ち残ったのは、並び評される信長、秀吉と比べて
リスクマネジメントやバランス感覚が優れていたからといわれる。
当の家康本人は勝利の秘訣をこんなふうに語っている。
「長命こそが勝ち残りの源である」




http://diamond.jp/articles/-/52635?_ga=2.145964209.465375347.1521505282-400150117.1521505282






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