妊娠中は生肉、生ハム避けて トキソプラズマに感染の恐れ

[妊娠中は生肉、生ハム避けて トキソプラズマに感染の恐れ]

(東京新聞  2013年4月30日)


妊婦は生肉や生ハムを食べない方がいい。
妊娠中に、生肉などについている寄生虫「トキソプラズマ」に感染すると、
胎児の発達が遅れたり、脳神経系に障害が出たりすることがあるからだ。
感染しても妊婦の症状自体は軽く、医師の危機意識が低いことも問題となって
いる。
(細川暁子)


東京都豊島区の歯科医師、渡辺智美さん(32)は、妊娠中に寄生虫「トキソ
プラズマ」に感染した。
生後、長女(2つ)の感染も分かり、「先天性トキソプラズマ症」と診断
された。
長女は右半身に軽いまひがある。

2010年夏、結婚3年目で待望の妊娠。
順調に経過し、妊娠6カ月からは胎動もよく感じていた。
ところが妊娠9カ月で胎児に異常が見つかった。
脳室が通常の2倍以上に拡大。
母体の血液検査で感染が分かった。


トキソプラズマは哺乳類と鳥類に感染する単細胞の寄生虫。
肉眼では見えない大きさで、卵はネコ科動物の腸管の中でのみ作られる。
感染したネコのフンに触ったり、土いじりしたりすることで、人に感染する
とされる。


だが最近は、感染した動物の生肉を食べて感染する危険性が指摘されている。
岐阜県食肉衛生検査所の獣医師、松尾加代子さんが昨年調べたところ、
食肉用の牛の6.5%、豚の5.2%がトキソプラズマの抗体検査で陽性だった。

トキソプラズマは65度以上で加熱しなければ死なない。
表面が焼けた肉でも、中まで火が通らないと死滅していない危険性がある。

ただし、感染しても健康な人なら、自覚症状がないほど軽症。
日本人の2〜3割は感染し、抗体を持っているとされる。


怖いのは免疫力が低下しがちな妊娠中の感染だ。
胎盤から血液を介して母子感染する恐れがあり、流産や早産につながり
かねない。
胎児の発育の遅れや、脳や目に障害が出ることもある。

渡辺さんは妊娠4カ月の時、焼き肉店で好物のユッケやレバ刺しを食べた。
その約2週間後にリンパ節が腫れたが、風邪だと思って病院に行かなかった。
長女の生後1カ月に、三井記念病院(東京)で母子の血液から感染時期を
調べたところ、生肉を食べた時期と一致した。
診察した産婦人科医で、トキソプラズマ研究の第一人者小島俊行さんに
よると、リンパ節の腫れは感染後の典型的な症状。
渡辺さんは生肉を食べて感染した可能性が高いという。


小島さんの推計では、全国で年間約500人が妊娠中に感染している。
母子感染はそのうち3割で、障害児として生まれる子は10人程度。
出生時に異常がなくても、成長とともに視力障害が出るケースもある。

小島さんは「食の欧米化で生ハムなどが普及し、生肉への抵抗が薄れている。
妊婦が生肉を食べる危険性は知られておらず、感染者が増える可能性がある」
と懸念する。



<低い産科医の危機意識>
トキソプラズマ感染では、産婦人科医の危機意識の低さも問題となっている。
感染は血液の抗体検査で分かる。
1000円程度の検査だが、全国の産婦人科の約半数では実施していない。

渡辺さんが妊婦健診を受けていた産婦人科も、検査を実施していなかった。

抗体検査で陽性なら、精密検査で感染時期を推定する。
妊娠前なら問題ないが、妊娠中が疑われる場合には抗生物質を投与して、
母子感染を防ぐ。


抗体検査を実施している練馬光が丘病院(東京)産婦人科顧問の長阪恒樹
さんは「めったに症例がないので、検査をしなくてもいいだろうと考えている
医師もいる」と指摘。
「むしろ抗体検査で陰性だった妊婦にこそ、生肉を食べたり土いじりをしたり
するリスクを教えるべきだ」と訴える。


渡辺さんも同じような悲しみを味わってほしくないと、昨年9月に患者会
「トーチの会」を設立。
啓発活動に力を入れている。




http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/health/CK2013043002000141.html





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