リハビリ ポリオとともに:5 将来見据え家を改装

[患者を生きる リハビリ ポリオとともに:5 将来見据え家を改装]

(朝日新聞   2012年7月30日)


麻痺を感じなかった右足の筋力が低下した大阪市の歯科医師、青木秀哲さん
(48)は、2010年春に「ポストポリオ症候群」と診断された。

歯科の診療中に左手に持った器具を落とし、不安がさらに募った。

手術に影響があると考え、講師を務める病院の上司に病気のことを話した。
すると上司は「そんな病気は聞いていない。隠していたのか」と怒った。
悔しかった。
数日後、退職願を出した。
仕事は好きだったが、ポストポリオ症候群は、どう進行するか先が読めない。


46歳の働き盛り。
これからどうしようか迷っているとき、2012年春に学科を新設する大阪
人間科学大の教員募集を見つけた。
思い切って応募。
採用された。


和歌山県立医大病院の主治医、幸田剣医師(36)は「症状の変化に合わせて、
仕事や生活スタイルを変えるのも、リハビリの1つ」と話す。

手足の装具やつえ、車いすなどの道具を現況に合わせることも重要だ。


腱の移行手術以来20年、装具と付き合ってきた。
ひざ下につけるプラスチック製から始まり、丈夫なチタン製、動きが滑らかな
油圧式など、症状の進み具合に合わせて換えた。

「ポリオの人は小さい頃から頑張ってきた。ポストポリオのリハビリは、
頑張り過ぎないことが大事」
幸田さんは、翌日に疲れが残らない程度の運動にとどめることを勧めている。

妻の佐世さん(43)も「その都度、1番いい方法を一緒に考えていこうと
思う」という。
いずれ車いすを使うことも視野に入れ、家の段差をなくし、手すりをつける
改装をした。


この春、大阪人間科学大・医療心理学科の教授になった青木さんは、ポスト
ポリオの研究を始めた。
50年以上前に大流行した野生のウイルスの患者と、自分のように生ワクチンの
副作用による患者では、症状の進み方に違いがあるのかを分析。
それぞれに合った装具も検討する。

今秋、毒性をなくした「不活化ワクチン」が日本でもようやく導入され、
新たな被害者は出なくなる。

しかし、発症した子どもたちの人生はこれからも続く。
「ポリオは過去の病気ではない。役立つ研究にしたい」  





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