これが低血糖昏睡であったのだ

[これが低血糖昏睡であったのだ]


とある夕方、自宅前の道路での話である。
外出先から戻って来ると、一方通行路の自宅前で、1台の乗用車が道路中央で
仁王立ちならぬ仁王停車していた。
後続の2台は困ったオーラを出している。

仁王立ち車は数分停車しては5m進み、また数分停車するというサイクルを
繰り返してした。
運転席を覗き込むと30代男性が1人、朦朧とした状態で運転席に座っていた。
ハンドルがわすかに右に切っていたため、仁王立ち車は徐々に道路の右端へ
移動しつつあった。
その頃には後続車は10台にもなっていたが、道路左側にスペースができたため
すり抜けて行った。
当然、全員怪訝そうな感じで運転手を見て行った。

私は運転席の隣に立って様子を見ながら、警察と救急車を要請した。
その時まず考えたのは、アルコールによる酩酊か薬物中毒であった。
そうこうしているうちに仁王立ち車は道路右端の電柱にぶつかって動けなく
なった。
とは言ってもオートマ車のクリープ現象でぶつかったので、電柱は無傷、
仁王立ち車もバンパーが少々凹んだだけであった。

警察官と救急隊員が到着し仁王立ち車のドアを開けた。
アルコールの匂いは全くせず、アルコールによる酩酊は否定された。
大量の発汗が認められ、意識朦朧、頭部は前後左右に大きく揺れていた。
呼吸数や脈拍は正常であった。
運転手を救急車に移し、仁王立ち車の社内を捜索したが、薬物は見つから
なかった。
薬物中毒の可能性は低くなった。

私は、救急隊員と警察官とから交互に状況説明を求められ、本部から来た応援
警察官にも状況説明を求められながら、あれこれ病名を考えた。
脳卒中や心筋梗塞では無いだろう・・・・・
これまで参加した学会や研修会にヒントになる症例はなかったか・・・・・

救急車を覗くと、救急隊員がカードケースをみつけ、兄に連絡をしてI型
糖尿病患者であることが判明した。
これが低血糖昏睡であったのだ。

救急隊員が主治医に電話すると受け入れ困難と言われた。
それもそうだろう。
いくら糖尿病の専門とは言っても一般内科医院でしかも夜間、昏睡状態の
患者を受け入れるのは一般的に無理だろう。
結局大きな病院の救急外来へ搬送されて行った。


後日救急救命外来の本を読むと、そこには次のように記載してあった。

  意識障害でバイタルサインが良ければ、何が何でも低血糖の否定から
  開始しないといけない。
  麻痺が出ることも珍しくない。
  シャツがずぶ濡れになるくらい冷や汗が出るのは尋常ではない。
  低血糖で恐ろしいほど交感神経が賦活されている証拠。
  汗が出る症状で救急で怖いのは、低血糖、心筋梗塞・・・・・・と多数。
  とにかく命の危険が迫ると汗が出まくる。



[参照引用]林寛之著  ステップ ビヨンド レジデント



(横山歯科医院・横山哲郎)





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