認知症と間違える症状 特発性正常圧水頭症

[認知症と間違える症状 特発性正常圧水頭症] (東京新聞  2010年6月25日) 特発性正常圧水頭症(iNPH)は、認知症と間違われやすい病気だ。 患者数は高齢者の100人に1人といわれ、うまく歩けなくなったり、気持ちが 不安定になったりするのが特徴。 ほかの病気と合併するなどして、診断がつきにくい場合もあるが、治療により 改善することは多い。 (野村由美子) 高血圧と軽い糖尿病がある愛知県内の男性(70)は、日常生活に不自由は なかったが、5年前に次第に歩き方に異変が現れた。 足が小刻みにしか前に出ない。 向きを変えようとすると、よろける。 半年後には、つえなしでは歩けなくなり、脳神経外科を受診した。 腰椎から髄液を20〜30ccほど抜く「タップテスト」をすると、翌日には 歩行が楽になり、歩幅も大きくなった。 iNPHと診断されて手術を受け、歩行が改善。 今はつえも不要になった。 「症状が歩行障害だけのケースなら、かなり改善し、良い状態を保てます」 と、名古屋大付属病院脳神経外科の永谷哲也医師は話す。 水頭症は、脳の中央にある脳室で生成される脳脊髄液(髄液)の流れが滞る ことで起きる。 そのため脳が「水浸し状態」になって、神経活動が阻害される。 髄液の異常は、くも膜下出血や脳腫瘍、脳外傷の手術後に起こることが あるが、iNPHは原因がはっきりせず、脳圧も一見正常値に見える。 疫学的には、動脈硬化や糖尿病を合併していることが多く、関連性が考え られるという。 初期症状の9割は、歩行障害。 足取りが小幅で、開き気味、すり足になり、座る、立つ動作や方向転換にも 非常に時間がかかる。 痛みはない。 認知障害が出る場合もある。記憶力が落ち、感情の浮き沈みが激しくなり、 意欲が低下するなどの症状があり、認知症と間違われることも多い。 患者のほとんどが60歳以上で、骨粗しょう症や腰椎症、多発性脳梗塞、 パーキンソン病などを抱えることも多い。 iNPHとは無関係に認知症を合併している場合もあり、診断は難しかった。 2004年に診療ガイドラインが策定されたことで、診断と治療も進んできた。 診断には問診などのほか、MRI、タップテストなどを使う。 「iNPHはゆっくり進行するので、1回の診察では経過がよく分からない。 ある程度の期間の変化を見て病状を把握する必要がある」と永谷医師。 治療には、脳の表面に滞る髄液を腹腔内に流し込むルートを造る手術をする。 「腹腔シャント術」と呼ばれ、頭の前部の頭蓋骨に穴を開けて、針を脳室に 刺す。 金属管をガイドに、直径1.2ミリのポリエチレンチューブを耳の後ろから 皮下を腹部まで通し、余分な髄液が腹腔内に流れるようにして吸収させる。 最近は脊髄の側から髄液を抜いて、腹腔に流す手術法を採り入れる病院も 増えてきた。 狭い脊髄に管を通す際のリスクもあるが、脳に針を刺さずに済み、患者の体の 負担は軽くなる。 入院は、経過観察も含め2週間ほど。 手術直後から歩行が改善する人や、1〜2カ月後に改善するなど個人差は ある。 認知障害は軽いほど改善する。 認知症を合併している場合は、改善の可能性は5割ほどだが、表情や反応が 良くなることは多いという。 手術の判断は、病状と本人の希望に加え、「介護力」が大きな要素。 歩けるようになっても、1人暮らしで家にこもる環境では、寝たきりになって しまう。 「家族、ケアマネジャー、地元医、専門医が連携して決めていくことが大切。 一人一人の症状と背景を考え、専門医が根気よく診ていく病気なので、よく 相談してほしい」と永谷医師は話している。 http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/health/CK2010062502000087.htmlNo tags for this post.
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