ビタミンのはなし(10)~葉酸と新生児の神経管閉鎖障害

[ビタミンのはなし(10)~葉酸と新生児の神経管閉鎖障害]

(データ・マックス 伊藤仁先生  2010年4月7日)


貧血のなかには鉄剤の投与によっても治癒されない貧血があり、
「悪性貧血」といわれ19世紀の医学界の大きな課題であった。

1931年にアメリカのキャッスルが動物の栄養障害による貧血を予防する
因子が肝臓中にあると報告した。
1941年にアメリカのネスルは、悪性貧血予防因子がほうれん草に含まれる
ことを発見し葉酸と命名した。
1945年、アメリカのレダリー社は結晶を単離し、翌年にはその化学合成に
成功した。


葉酸が神経管閉鎖障害(無脳症、二分脊椎、脳瘤)に効果があることが
判明し、食品への添加が求められるまでに約50年にわたり世界各地で多くの
ヒト介入試験や研究活動を行なった成果である。


1950年代に最初の神経管閉鎖障害が多数報告されたのは、イギリスの炭鉱
地帯であった。

1970年代にハンガリーで実施された大規模なヒトでの介入試験では妊娠
予定の4,000人以上の女性へ、葉酸400μg(0.4mg)を投与したグループと
非投与グループに分けて試験を実施したところ、非投与グループで6名の
神経管閉鎖障害を持つ新生児が生まれたのに対し、葉酸を投与したグループ
では0名であった。

イギリス医科学研究所は1983年~1991年の8年間にわたる研究の結果、
1日0.4mgの葉酸投与で神経管閉鎖障害の72%が予防可能であると立証した。


1992年にアメリカの疾病コントロールセンター(CDC)は、妊娠する
可能性のある全女性に対して1日0.4mgを摂取することを勧告した。

1998年からアメリカやカナダ、その後イギリス、オーストラリア、
アイルランド、オランダ、ノルーウェー等の各国ではコーンフレークや
シリアル類等の小麦製品に葉酸400μg(0.4mg)の添加を義務づけたり、
妊娠期の女性は1日400μg(0.4mg)以上の葉酸を摂取するよう勧告して
いる。


日本でも2000年から厚生労働省が「母子手帳」で妊婦に対し、葉酸の
重要性を説きその摂取を呼び掛けているが一般的な認識は殆どないのが現実で
ある。
主要な欧米の国々の葉酸に対する行政的対応に比して、厚生労働省の栄養
行政は不十分と言わざるをえない。




http://www.data-max.co.jp/2010/04/10_99.html





カテゴリー: え栄養医学, さ産科,  小児科(医科) タグ: パーマリンク