カーナビは「カクテルパーティー効果」を使っている

[雑音の中なぜ会話が聞き取れるの?]

(日経新聞 2010年4月3日)


パーティー会場のような雑踏の中で、誰かと会話している場面を思い浮かべて
ほしい。
あなたは話し相手の言っていることを、きちんと聞き取れるはずだ。

しかし同じ場所で録音した声を後で聞くと、雑音ばかりでほとんど聞き取れ
ないことがある。

聴覚が備える「カクテルパーティー効果」と呼ばれる不思議な現象だ。



<会場の様子を思い浮かべられそうな名前の付け方だね>
米国の心理学者、E・C・チェリーが手掛けた実験がきっかけなんだ。
協力者にヘッドホンを付けてもらい、右側か左側のどちらか一方の会話に
注意を払うようあらかじめ指示した。
会話を聞き終わった後、注意していなかった方の会話の内容を確かめて
みると、当然だけれどほとんど理解できていなかった。

ところが、注意を払わない方の会話の途中に協力者の名前を挿入してみると、
その瞬間に注意が移って会話の内容を部分的に理解できるようになったと
いうんだ。

1953年に発表した論文で「カクテルパーティー効果」と提案したそうだよ。



<なぜそんなことが起きるの?>
それがほとんど分かっていないんだ。

チェリーの実験以来、脳の中に何かフィルターのように働く場所があり、
都合に合わせて特定の音声を聞き取れるようにしたり遮ったりしているの
だろうと考えられている。

自然科学研究機構生理学研究所の柿木隆介教授は「一見当たり前で問われて
みると不思議な現象だ」と解説している。

パーティーのような環境を準備して雑談しながら脳の中で何が起きているの
かを調べる方法はなく、詳しい研究ができなかった面もあるようだね。

ようやく最近、脳の中の様子を観察する新しい機器が登場して研究が進み
始めたんだ。

柿木教授の研究グループも磁力の変化で神経細胞の活動を調べる特殊な装置を
使い、カクテルパーティー効果が起きている際の脳を観察している。
言語をつかさどる場所と聴覚をつかさどる場所が、どのように連動して働いて
いるのかを探っている。



<特定の方向からの声を認識するカーナビゲーションは、
              カクテルパーティー効果を使っているんだね>
音声認識の電子機器で、この効果の仕組みをまねることができる。
カーナビゲーションはその代表例といえるよ。

北陸先端科学技術大学院大学の赤木正人教授は「脳の中で何が起きているの
かは謎に包まれているけれど、工学的な応用は随分と進んできた」と話して
いる。



<何人もの訴えを同時に聞いたという聖徳太子は、
       カクテルパーティー効果の優れた能力をもっていたのかな>
雑音の中から特定の音声を聞き取るだけなく、複数の会話を同時に理解して
いたようだから、カクテルパーティー効果とは違う別の能力も備えて
いたんだろうね。


(編集委員 永田好生)


http://www.nikkei.com/life/family/article/g=96958A90889DE2E6EBE0E6E7E2E2E1E2E2E1E0E2E3E2E2E2E2E2E2E2;p=9694E0E4E3E0E0E2E2EBE1E3E2EA




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