サルの色覚異常、遺伝子注入で治癒

[サルの色覚異常、遺伝子注入で治癒]

(ナショナルジオグラフィック  2009年9月17日)


新たな研究により、サルの色覚異常が簡単な細胞注入で治ることが確認
された。

人間の視覚も遺伝子治療で改善するのか、将来的な研究にゴーサインが出た
かたちだ。

研究を行ったジェイ・ナイツ氏は、「夢の治療法だ。あらゆる種類の眼疾患に
効果があるかもしれない」と話している。

色覚異常の中で1番多いのは赤と緑の区別が付かない「赤緑色覚異常」だが、
それもこの方法で治せるのだろうか。
いまの段階でそれを明言するのは時期尚早だが、ナイツ氏は自信を
のぞかせている。

「現段階でも、まったく同じ治療法で人間の色覚異常を治せるはずだ」と
同氏は言う。
眼科医であるナイツ氏は、アメリカ、ワシントン州シアトルにあるワシントン
大学で教鞭を執っている。

色覚異常は人間に最も多い遺伝病だ。
ナイツ氏によると、発症者の数はアメリカで約350万人、中国では1,300万人
以上、インドでは約1,600万人に上るという。

患者は男性の方が圧倒的に多く、この症状を抱えていてもほとんどの目の
機能に問題はない。

「しかし、地質学の研究や航空業界など、正常な色覚が要求される仕事に就く
ことができず、精神的に苦しんでいる人がいるのも事実だ。日常生活では、
秋の紅葉や夕焼けを十分に楽しめないほか、体の日焼け具合を自分で確認
できないという問題もある」とナイツ氏は説明する。

色覚異常は人間だけの病気ではなく、一部のリスザルもまったく同じ症状を
抱えている。
色素遺伝子の欠損により、赤と緑の区別が付かないのだという。

ナイツ氏の研究チームはリスザルのこの性質を利用して、色覚異常に対する
遺伝子治療の有効性を調べた。

色覚異常の個体と正常な個体を研究室に集め、研究のために訓練したので
ある。
灰色の点がちりばめられたタッチスクリーンをリスザルに見せ、ときどき点の
色を変えてみる。
合図音に合わせて、リスザルは色の変化した点にタッチするという段取りだ。
正しくタッチできた場合は、褒美としてグレープジュースが与えられた。

「しかし点が赤か緑に変化した場合、色覚異常のリスザルは必ずいら立ちを
あらわにし、スクリーンを揺さぶることさえあった」とナイツ氏は言う。

タッチスクリーンのテストを一通り終えた後、研究チームは色覚異常のある
2匹の網膜の裏側に赤に反応する「錐体細胞」を注入した。
錐体細胞は、光と色に反応する視細胞の一種である。

9月17日に「Nature」誌で発表された研究論文によると、それら2匹の
リスザルは1週間以内に赤と緑を識別できるようになったという。

マサチューセッツ州にあるウェルズリー大学の視覚神経生物学者で色覚の
専門家のベビル・コンウェイ氏はこの研究を受けて、「色覚異常のあった
リスザルたちはこの変化に大いに喜んだはずだ。生い茂った緑葉の中から
果実を見つけられるようになったのだから」とコメントしている。

人間の色覚は、数百万個に及ぶ特殊な神経細胞の集合体に支えられている。
そしてそれらの神経細胞は、成人になると比較的柔軟性がなくなるものだと
昔から考えられてきた。

このためコンウェイ氏は、たった1度の遺伝子治療で色覚異常を治せることに
驚きを隠せないようだ。
同氏は当初、この研究に否定的な立場を取っていたという。
「純粋に進化の観点から言えば、視覚の神経回路をすべて正常に戻すことは
難しいに違いない。しかし小さなスイッチを1つ切り替えればそれが可能で
あることを、研究チームはおおむね証明した」と同氏は高く評価する。

「今回の研究で、成人の脳は既存構造のままで新しいシステムに順応できる
ことが明らかになった。脳研究の前提条件の一部は再考しなければならない
だろう」と研究チームのナイツ氏は述べている。

そして同氏は次のように話を続けた。
「脳は意外に柔軟性が高く、その能力は計り知れない。不可能とされていた
治療が今後は実践されるようになるはずだ」。



http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20090917-00000001-natiogeo-int




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