日本の医療費は米国の半分以下で、先進7カ国で最下位

[Dr.中川のがんから死生をみつめる/17 医療費、出し渋る日本]

(毎日新聞 2009年8月4日)


がんの完治の定義はありません。
再発の危険は、治療から月日がたてばたつほど減っていきますが、たとえば
乳がんでは、20年後に再発することも決して稀れとは言えません。
あるいは、もともと完治が難しく、一生付き合っていかなければならない
がんもあります。
結核などの感染症と違って、がんという病気の難しいところです。


一生涯にわたって治療を続けなければならないがんの場合、問題になるのが
治療費です。
たとえば、白血病の一種「慢性骨髄性白血病」は、かつてリスクの高い骨髄
移植を受けないかぎり、死に至る病気とされてきました。
しかし20年ほど前、新しい治療薬「インターフェロン」が登場し、長生き
できる患者さんが、わずかながら出てきました。
さらに2001年には、白血病の原因となる異常なタンパク質を選択的に抑える
画期的な分子標的治療薬「グリベック」が発売され、長期に生存できる患者
さんが急増しました。

ところが、グリベックは服薬を一生続けねばなりませんし、薬代も非常に
高額になります。
保険がききますが、自己負担が3割の場合、毎月11万6,000円程度の支払いに
なります。
高額療養費制度を使っても、毎月4万4,400円を自己負担しなければならない
ため、年間およそ53万円の負担になります。
もし20歳代で発症すると、一生で何千万円もかかる可能性があります。


フランス、イギリス、イタリアといった、多くのヨーロッパ諸国では、がんの
医療費は、公的保険でカバーされていて、患者さんの自己負担はありません。
世界に誇る「国民皆保険制度」を持つ日本も、この点は及びません。


そもそも日本は医療にお金をかけていません。
我が国の国内総生産に対する医療費の割合は約8%です。
米国の17%の半分以下で、先進7カ国の最下位です。
医師や看護師の数もやはり7カ国中最下位ですが、公共事業への支出割合は
トップです。


命より道路を優先してよいはずはありません。
必要なお金を、きめ細かく医療にかけること、たとえば、がん医療費を支援
することが、国民の生活を守ることにつながるはずです。



(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)




http://mainichi.jp/select/science/archive/news/2009/08/04/20090804ddm013070079000c.html





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