色覚障害 模擬製品で実感

[色覚障害 模擬製品で実感]

(日経産業新聞  2008年6月30日)


眼鏡レンズ中堅の伊藤光学工業(愛知県蒲郡市、伊藤寛社長)が豊橋技術科学
大学の中内茂樹教授と連携し、色覚に障害がある人への理解を促す啓蒙活動に
取り組んでいる。

色の見分けにくさを実感できる特殊な眼鏡とルーペを共同で開発。
企業や地方自治体に販売し、製品開発や標識デザインの改良などに役立てて
もらう。

「300万人あまりいるとみられる色覚障害者の99%は赤と緑を見分けにくい」
(伊藤社長)

開発した眼鏡型の色弱模擬フィルター「バリアントール」(3万4,500円)と、
ルーペ型の「パンケーキ」(1万9,500円)は、赤と緑が見分けにくくなるよう
特殊な加工を施してある。

レンズには無機酸化物の薄膜を特殊技術で30数層蒸着させた。
薄膜はそれぞれ赤と緑の中でも特定の波長の光を通さない性質を持つ。
重ねることで赤と緑の全体を見えにくくした一方、白色光を透過しやすく
工夫し、暗くなるのは防いだ。

このレンズを使えば、障害を持つ人たちがどのような光景を日ごろ見ている
かを実感できる。

特定非営利活動法人(NPO法人)のカラーユニバーサルデザイン機構(東京・
港)からは、色覚の多様性に配慮したデザインを促す道具として認証も受けて
いる。

2006年末のバリアフリー新法施行で、公共施設の整備の望ましいあり方を
示したガイドラインにも、色覚障害者に配慮するよう明記された。
だが、対応は全般に遅れている。

中内教授は「色覚障害者が困っている例は多い」と指摘する。
例えば、携帯電話の充電が完了した際、表示灯の色が赤から緑に変わっても
わかりにくい。

黒地に赤い文字が浮かび上がる券売機、特急の出発時間を赤字で示す時刻表、
路線ごとに色分けした地下鉄などの路線図、フルカラーの教科書。

交差点の信号機も発光ダイオード(LED)を使ったものが増えたため、
見にくくなってしまったという。
「色の混じり気がなくなり、かえって区別しにくくなった」(伊藤社長)。
従来の信号機は赤や緑の光に、黄色などほかの色が微妙に混ざっており、
判別を助けていた。

伊藤光学はこれまで、色弱模擬製品を地方自治体や家電・事務機器メーカー、
出版社、標識の製造業者などに1,000本あまり販売してきた。

出版業界では、小学生の教科書に掲載するカラー地図で、境界線の色を改善
した例があるという。

リコーは多機能複写機(複合機)でコピーが可能かどうかを、表示灯の色
だけで示していたのを改善し、ランプが光る場所の違いでもわかるように
した。
会社案内をはじめとする発行物、社内の避難口掲示にも配慮するように
なった。

小学校などで色覚検査が実施されなくなり、色覚障害自体を本人や周囲が
気付きにくい問題点もある。

伊藤社長は「社会貢献のために採算は度外視している」と話す。

赤緑のフィルターよりも需要が小さいとみられる他の色のフィルターも開発を
進める考えだ。


(豊橋支局長:佐藤敦)



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