舌痛症という舌の病気を知っていますか?

[「舌痛症」(ぜっつうしょう)という舌の病気を知っていますか?]

(踊る歯科心身症ネット)



<どのような治療方法が有効なのでしょうか?>
現在、最も有効な治療法は抗うつ薬を中心とした薬物療法です。
心の病やうつ病と診断して抗うつ薬を処方するのではありません。
舌の慢性疼痛を治すために抗うつ薬が必要なのです。

30年以上前から、舌痛症に「アミトリプチリン」(トリプタノール錠)などの
三環系抗うつ薬が有効であることが報告されています。
現在では、抗うつ薬には抗うつ効果とは異なる働きで鎮痛効果を持つことが
科学的に証明されています。

しかし、「うつの薬」といった偏見が患者さんばかりでなく、医療従事者の
間にも根強く、また処方の仕方にもそれなりの知識や習熟が要求されるため、
あまり普及しなかったようです。

抗うつ薬には、その作用機序から三環系、選択的セロトニン取り込み阻害薬
(SSRI)、セロトニン・ノルアドレナリン取り込み阻害薬(SNRI)などが
あります。
最も切れ味がよいのはアミトリプチリンですが、副作用を考慮するとSNRIや
SSRIが第1選択薬として適していると考えます。

抗うつ薬を服用すると、早ければ4〜5日目から、遅くても1週間から10日
くらいで舌の痛みが緩和していきます。
理想的に治療が進展していけば、3〜4週間後には痛みは7割方改善して
いきます。
胃腸の調子が少し悪くなる場合もありますが、軽い整腸剤を併用すればすぐに
治まります。
不眠などが伴う場合、睡眠導入薬や抗不安薬(いわゆる安定剤)を併用する
こともあります。

効果が十分得られたらそのまま数ヶ月は薬を続けて再発・再燃を防ぎます。
症状に波は多少残りますが、徐々に落ち着きますので心配は要りません。
一生飲み続けないといけないものではありませんが、半年から1年くらいは
続けた方がよい場合が多いようです。
年単位で継続しても、きちんと通院していれば特に副作用などの問題は心配
ありません。


しかしながら、抗うつ薬の鎮痛効果には個人差があります。
その患者さんごとに脳内で起こっている「回路の混線状態」が微妙に異なる
ようで、残念ながら「この薬で全員が治る」というところまでは治療法が確立
されていません。



<舌痛症の原因(メカニズム)>
舌痛症の原因は未だ十分に解明されていません。
見た目でパッと分かる異常がないので、痛みの原因は往々にして精神的な問題
だと思われてしまう傾向があります。

確かに以前は「心因性」の痛みではないかと考えられていましたが、近年では
「神経痛」に近い病気で、痛みを伝達し知覚する神経回路に障害が生じている
ためだと考えられるようになってきました。

舌痛症の患者さんは「気にしすぎて痛いのではなく、痛いから気になる。」と
言います。
実際にその通りだと思います。
「癌ではないか」と心配しすぎて「痛い、痛い」と大げさに言っているわけ
ではなく、「痛みがあまりにも続くから悪い病気を心配する」のです。
舌痛症は精神的な病気ではないと考えています。


では舌に潰瘍など器質的な原因がないのに、なぜ舌の痛みを感じるので
しょう?
この病気では口腔の痛みの感覚神経が「回線の混線」を起こしていると考え
られるのです。
すなわち痛まなくてもいい時に、痛みの神経回路が勝手にバチバチと電気
信号を発している状態が起こっていると考えています。
睡眠不足、体調不良や疲労などによって、この電気信号の活動が影響を受ける
ため、症状に波があると考えると説明がつきます。

従来、舌の痛みは何らかの刺激(口内炎などのキズや火傷など)が原因で
生じるもので、そのような刺激がない状態での痛みは異常であり心の問題と
考えられてきました。


しかし、最近の脳科学の知見によると、脳は全く外部入力(外からの刺激)が
なくても知覚経験(痛みなどの感覚)を創造できることが明らかになって
います。

次のような説明がわかり易いでしょう。
「幻肢痛」という病気があります。
これは、地雷・交通事故・病気などにより手足の切断を余儀なくされた方が、
失ったはずの手や足に痒さや痛みを感じることがあるのです。
これを幻肢痛というのですが、気のせいで起こるものではないことが容易に
理解できると思います。
幻肢痛の痛みは中枢性疼痛というもので、脳内の痛みの神経回路に何らかの
異常が起こるために、ないはずの部分に痛みを感じるのです。

このような痛みは中枢神経系のかなり上位、すなわち脳自体にある体性知覚
回路を通る電気信号の流れが変化することによって引き起こされるのでは
ないかと考えられています。

舌痛症や幻肢痛の痛みは抗うつ薬によって軽減あるいは消失することが
臨床的な研究によって証明されています。
抗うつ薬は、その作用機序として脳内のセロトニン神経やノルアドレナリン
神経の情報伝達を促進させます。
抗うつ薬への反応性から、これらの神経系への作用が「回路の混線」を正常化
させていると考えられます。



<舌痛症って、どんな病気?>
舌にヒリヒリ、ピリピリとした慢性的な痛みやしびれた感じが続く舌の病気
です。
最初は「火傷でもしたかな?」とか「新しい銀歯がこすれているのかな?」と
いった感じですが、何週間も経つのに一向に良くなる気配がありません。
見た目には舌に全く異常が認めらないことが多く、病院へ受診しても診断が
つかず、効果的な治療を受けられないことが多いようです。
その結果、多くの方が舌の痛みやしびれを抱えたままでの生活を余儀なくさ
れていると報告されています。

「自分だけがこんな舌の病気になってしまった」「この舌の痛みは、一生
治らないのではないか」と心配されておられるかもしれません。
でも、ご安心ください。正しい診断と適確な治療により、このような舌の
症状を改善させることができるのです。


「舌痛症」(glossodynia)は、大正時代から口腔外科の教科書に記載されて
います。

40〜50歳代の女性に多いとされていますが、更年期との関連はないよう
です。
また、長期間内科のお薬を飲んだからといって、発症するものではありま
せん。


ほとんどの場合、何とか我慢できないほどの痛みやしびれではありませんが、
重症の方は「家事もできない」「いっそ死んだ方がまし」というほど耐え
がたい痛みになる場合もあります。

症状には波があり、起床直後や午前中は比較的落ち着いていますが、夕方や
夜にかけてひどく痛むことが多いようです。

不思議なことに、この舌の痛みは食事中や会話中などはあまり支障がなく、
何かに熱中している間は痛みやしびれを忘れる場合もあります。

あまりに長く舌の痛みが続くため、舌のガン(癌)ではないかと心配される
患者さんも多いのですが、この病気が原因で舌癌になることはありません。

この舌の痛みには、口内炎の軟膏やうがい薬、あるいは普通の痛み止めや
カンジダ症の薬は効果がありません。



<舌痛症のおもな症状>
(1)舌の先や縁に「ヒリヒリ」「ピリピリ」した痛みや灼熱感、あるいは、
しびれるような感覚が長期間(数週間から半年以上)続く。
「やけどをしたような痛み」「歯がこすれるような痛み」「舌のしびれ」
などの知覚であることが多い。

(2)舌、歯、口腔を検査しても舌の痛みやしびれの原因となるような腫れや
炎症などは見つからない。(器質的異常は認められない)
血液検査でも特に異常値は認められない。
三叉神経痛や舌咽神経痛の電撃痛とは異なる痛みであり、末梢の神経学的異常
(麻痺など)も認められない。

(3)食事中や何かに熱中している間は舌の痛みやしびれを感じないことが
多い。
 むしろ一息つくなど1人でじっとしている時に痛みが強くなることが多い。
ガムや飴玉などを口に入れておくと少し痛みがまぎれることがある。



<舌痛症のその他の特徴>
(1) 40〜60歳前後の中高年の女性に多い。
(2)真面目で几帳面な性格の人が多い。
(3)舌癌では?と心配になることが多い。
(4)銀歯や入れ歯などの歯科治療の後に発症することもしばしばある。
(5)舌の痛みやしびれは我慢できないほどではないが、1日中気になり、
   舌に神経が集中している感じである。
   口の中が痛いので、イライラしたり、他のことをやる気が削がれたり
   する場合もある。
(6)午前中よりも、夕方から夜にかけて舌の痛みやしびれが増悪する。
(7)食事や会話には支障がないことが多いが、食べ終わった後や長電話の
   後に舌の痛みやしびれが悪化することが多い。
(8)痛む部位が移動することがある。
   唇や口蓋(上アゴ)までピリピリ痛むこともある。
(9)口内炎の軟膏をつけたり、痛み止めやビタミン剤を飲んでも一向に
   よくならない。
(10)歯科で何度も歯の先などを研磨しても舌にこすれる感じがとれない。
(11)口の中が乾いたり、「ザラザラした感じ」や味覚の変化
   (おいしくない、本来の味がしない)をしばしば伴う。
(12)不眠、肩こりや頭痛など自律神経症状を伴うことが多い。
(13)CTやMRIでは特に脳の病変は認められない。
(14)なお、うつ病など精神疾患を合併しておられる方は非常にまれです。




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