しっかり食べて肺炎防ぐ:元東京医科歯科大学臨床教授エッセイ

[しっかり食べて肺炎防ぐ] (元東京医科歯科大学臨床教授エッセイ) (読売新聞  2008年4月25日) 子供のころ、ご飯をガツガツと食べ、むせ込んでは親に叱られた。 私は8人兄弟の末っ子で、我が家は貧乏人の子だくさんを地で行く大家族で あった。 丸いお膳を囲んで、一斉に箸を繰り出し、1つの鍋を突く様は壮観であったに 違いない。 そのせいか、恥ずかしながらいまだに早食いの癖が抜け切れない。 人間は肺に送り込む空気と、食道を通して胃に送り込む食物とを同じ口から 取り入れる。 そして、咽頭という、のどの奥の部分でこの両者を反射的に分けている。 空気が来たなと思えば、気管を開けて肺に送り込む。 食物が来たなと思えば食道の方を開けて胃に送り込む。 実に見事な交通整理である。 それが、ガツガツと食べれば、空気も食物も同時になだれ込んでくるから、 大混乱をきたしてしまう。 まあ、両者が胃の方になだれ込む分には、問題は少ない。 はた迷惑ではあるのだが、せいぜい、ゲップやおならで空気は外に排出 される。 問題は、肺の方に食物や液体が入り込んでしまうことである。 もちろん正常であれば、反射的に咳が出て、これらを外に出そうとする。 ちょうど、冒頭の私がむせ込んだ状態がこれである。 元気な若者がむせ込むのは、行儀が悪い程度で済むが、抵抗力の弱っている 高齢者では大問題となる。 それが誤嚥性肺炎で、別名、老人性肺炎とも呼ばれ、いまでは高齢者の死因の 上位に位置している。 高齢になると、咽頭で行われる交通整理がうまくいかなくなり、同時に咳に よる反射も十分ではない。 従って、食物や液体が肺の方に入り込み、一緒に侵入した細菌によって肺炎が おこるという訳だ。 誤嚥性肺炎は食事中だけではなく、睡眠中でも、のどの方に逆流した胃液、 あるいは胃の内容物によっても起こる。 介護の現場では、いかにして誤嚥を防ぐかが、重要なテーマである。 食事は少量ずつゆっくりと、それも出来るだけ上半身を起こした状態で行う。 食後も、胃の逆流を防ぐために、しばらくは同じ状態を保持することが大切と いわれている。 ただし、誤嚥してもすぐに肺炎になるかどうかは、細菌の量と免疫力に かかわってくる。 要介護高齢者に行った調査でも、口腔ケアを十分に行ってプラーク(細菌の 塊)の量を減らした方が、また義歯によってしっかりと食事をし、栄養を摂取 した方が、肺炎になる確率が少ないことが報告されている。 う〜ん、そうすると、しっかりと歯を磨いて口の中を清潔に保ち、たとえ歯を 失っても、その部分を歯科医院で補ってもらって、良い義歯で食事を摂る。 それが結局は、誤嚥性肺炎を防ぎ、ひいては明るい長寿につながることが よくわかりますね。 http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/karadaessay/20080425-OYT8T00392.htmNo tags for this post.
カテゴリー: か噛み合わせ(咬合),  MFT口腔筋機能療法,  嚥下・嚥下障害, よ予防歯科 パーマリンク