けいれん性発声障害

[けいれん性発声障害]

(読売新聞  2007年12月28日)


<声帯の緊張 手術で緩和>
熊本県の女性(29)は、5年ほど前から声が詰まるなどの症状が現れた。
耳鼻科などを数か所回ったが原因が分からず、バスガイドの仕事を退職。
以後も発声困難は進行し、小声しか出せなくなった。

昨年2月に受診した熊本大病院で「けいれん性発声障害」と診断。
同年8月、のどの軟骨を少し広げて、声帯の緊張を和らげる手術を受けた。
すると以前の声が戻り、現在は治療後に付き合い始めた男性と結婚して、
幸せな生活を送っている。
(佐藤光展)


声帯は空気が肺に行く経路の途中にあり、呼吸の時に開き、発声時は閉じる。
閉じた声帯の間を、肺から出る呼気が抜ける際に、声帯が震えて声が出る。

けいれん性発声障害は、声帯が強く閉まり過ぎるなどして、声が詰まったり、
途切れたり、震えたりする。
1日の間でも症状の変化があり、緊張すると症状が重くなる傾向がある。


同様の症状は、過緊張性発声障害でも出る。
これは、必要以上にのどに力を入れて発声する癖によるもので、言語聴覚士の
発声指導で改善する。
1年ほど経過を見てもよくならない場合は、けいれん性発声障害の可能性が
高い。


患者は20〜30歳代の女性に多い。
正確な患者数は分からないが、熊本大耳鼻咽喉科・頭頸部外科助教の讃岐徹治
さんは「軽症を含めれば、数千人に1人はいるのでは」とみる。


しかし、この病気は、医師の間でも知られていない。
声帯をみても異常はわからず、「精神的なもの」と誤診されるケースもあると
いう。
正確な診断を受けるまでに、耳鼻科や神経内科、精神科などを5〜10か所回る
人が多い。


特定の筋肉に過度の緊張が起こり、首や手首、上半身などが曲がったり、目が
閉じたりしてしまうジストニアの一種と考えられるが、明らかな原因は分から
ない。


そのため、治療は対症療法となる。
米国で普及しているのは、声帯の動きにかかわる筋肉に毒素を注射し、
一時的に麻痺させるボツリヌス療法だ。
だが、安定した効果を得ることはできず、薬の効き目がなくなる3か月から
半年ごとに、注射を繰り返す必要がある。


熊本大で行っているのは「甲状軟骨形成術2型」と呼ばれる手術法。
京都大学名誉教授で、一色クリニック(京都市)院長の一色信彦さんが考案
した。
手術は、首への部分麻酔で行われる。
のど仏付近の皮膚をシワに沿って横に2.5〜3センチほど切開し、現れる甲状
軟骨を縦に切る。
続いて、この軟骨を左右に少しずつ広げていき、患者に「おはようござい
ます」など、これまで最も発声しづらかった言葉を話してもらう。
甲状軟骨を開くことで、声帯の締まりが弱まり、声が楽に出るようになる。
広げる幅は2ミリ〜6ミリ。
最もよく声が出たところで、すき間にチタン製の金具を2つはさんで固定
する。
手術時間は約1時間半。
手術後は声帯が腫れるため、すぐには声を出さず、1週間入院して回復を
待つ。

讃岐さんが、この手術を行った患者80人のうち、7割で症状が消失。
緊張した時に多少の詰まりが出る人が2割、残る1割は症状は改善したが、
患者の希望ですき間の再調整を行った。


讃岐さんは「手術するか否かは、どの程度までの声が出るようにしたいのか、
という希望や症状の受け止め方などで異なる。耳鼻科の音声外来で、じっくり
相談してほしい」と話す。



http://www.yomiuri.co.jp/iryou/medi/saisin/20071228-OYT8T00316.htm




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