寝たきり予防の切り札:口腔ケア術

[寝たきり予防の切り札 口腔ケア術]

(NHKためしてガッテン 2007年7月11日放送)


今回のテーマは、食べる・飲み込むという動作が満足にできなくなる病気
「摂食嚥下障害」。
(番組では分かりやすさを優先して「飲み込み障害」と名付けました)

こうした症状に悩む人は、お年寄りを中心に全国で推定80万人もいます。
老化や病気が悪化の原因とは限らないこの不思議な症状を大研究!
回復法、予防法(=口腔ケア)を紹介します。
さらに、入れ歯と肺炎の深い関係と、正しい手入れの方法についてもご紹
介します。



<ただごとじゃない!  飲み込み障害の悲劇>
77歳のAさんは、4年前、飲み込む力が衰えたことがきっかけで、肺炎を患い
ました。
直接の原因は、本来、食道に流れるはずの食べ物を、誤って肺に入れて
しまったことでした。
次の肺炎がいつ起こるか分からないという恐怖感から食べられなくなり、
体重は激減。
わずか2か月で62キログラムから50キログラムまで減りました。

そこで栄養不足を防ぐため、胃に穴を開けて栄養剤を直接胃に入れる
「胃ろう」という処置をとることになりました。
その結果、1日のうち7時間をベッドで過ごさなくてはならなくなり、
ほとんど寝たきりの状況にまでなってしまいました。



<なぜ飲み込む能力が弱くなると、肺炎を発症するの?>
人間ののどの奥には、食道と気道を分岐している場所があります。
この分岐点には「気道のフタ」があり、食べ物が気道に入ろうとするのを防ぐ
働きをしています。
上で紹介したAさんは、このフタの働きが弱ってしまったケースです。
フタの閉まりが悪くなることで、本来食道に流れるはずの食べ物を誤って肺に
入れてしまい、これが原因で肺炎が起きたのです。
(誤嚥性肺炎)
※肺炎の発症には、免疫低下など、その他の条件も関係します。



<胃ろうをつけても肺炎のリスクは変わらない?>
フタの働きが弱くなっていると、食べ物だけでなく唾液もうまく食道に送り
込めず、誤って肺に入れてしまうリスクが高まります。
よって、肺炎のリスクは変わりません。
※番組では、栄養不足が懸念される患者に対しては「胃ろう」は重要だと
 考えています。



<発見! これがフタの動力源>
超小型カメラでのどの奥を観察して、飲み込みの仕組みを直接見る実験を行い
ました。
23歳の健康な番組スタッフがセンベイを噛んで飲み込んだところ、気道の
フタがきちんと閉まり、センベイは無事に食道へ送られました。
ところが、フタの働きに大きく関わる「口の中のある部分」に麻酔を打って
感覚を鈍らせ、同様の実験を行うと、今度はセンベイの一部が食道には
行かず、のどの奥に残ってしまいました。

その「ある部分」とは、舌です。
舌は私達の想像よりもはるかに奥のほう、気道と食道の分岐点まで伸びて
います。


<気道のフタの働きを鈍らせたものとは?>
実は気道のフタには筋肉がほとんどなく、逆に筋肉の塊である舌に押される
ことで開いたり閉まったりします。
(実際には舌周辺の筋肉も関与します)
飲み込み障害は、気道のフタの周辺の筋肉が弱ることで起きていたのです。



<気道のフタ周辺の筋肉を弱らせる原因は?>
もともとのきっかけは老化や病気(主として脳卒中)など、さまざまな
ケースがありますが、筋肉がより衰える最大の原因は、その筋肉を使わない
ことです。

使わないことが飲み込むための筋肉の衰えを加速させ、衰えることで肺炎の
リスクが高まります。
その肺炎がきっかけでますます使わなくなり、ますます衰える・・・・・。
飲みこみ障害は、このような悪循環を引き起こすのです。



<Aさんのリハビリ日記>
胃ろうでしか栄養が摂れなかったAさんは、何とか自分の口で食べたいと
リハビリに取り組みました。
すると飲み込む能力を徐々に取り戻し、体重も回復。
1年2か月後には胃ろうも不要になり、自分の口から摂る栄養だけで過ごせる
ようになりました。
寝たきり状態からも脱しました。
※リハビリは、専門家の指導のもと安全に注意して行っています。
 決して自分の判断で真似をしないで下さい。
※リハビリでどの程度の効果が期待できるかは個人差があります。



<飲み込み障害が招く悪循環とは?>
飲み込み障害の本質は、使わないことによって悪化する「廃用症候群」に
あります。
「廃用」とは、「使わない」ことです。
つまり「廃用症候群」とは、使わないことによって衰えることをいいます。
いったん廃用症候群が起こると、食べられなくなって低栄養状態となり、
やがて免疫の低下が起こります。
すると肺炎を発症しやすくなり、また次の廃用症候群が起こるのです。

飲み込み障害のきっかけで最も多いのは病気(主として脳卒中)ですが、
「近ごろ、飲み込むときにムセることが多くなった」と感じる人も要注意。
自分でも気がつかないうちに、軽度の飲み込み障害が始まっている可能性が
あります。
特に、物を食べる、飲み込むという行為は、あまりに日常的すぎて、衰えに
気が付きにくいのです。
こうした現状を受け入れてそのまま放置してしまうと、肺炎を起こすか、
廃用症候群に陥ってしまう可能性があります。
対策としては、各地の介護施設等で行われている「口腔体操」がおすすめ
です。
半年続けると、舌の力が30%アップするなどの効果が期待できます。
家庭でもできる口腔体操は実習コーナーでご紹介します。



<肺炎の危機!>
入れ歯使用者8人に集まってもらい、入れ歯にどれだけ細菌がついているかを
調べました。
すると、6人が自分の想像よりもはるかに入れ歯が汚れていたことが判明
しました。
その中には、市販の洗浄剤で毎日欠かさず手入れをしていた人もいたのです。



<なぜ洗浄剤を使っていても、細菌が落ちないのか?>
細菌には、洗浄剤など化学的な攻撃に対しての防御機能があります。
それが、細菌自身が出すバイオフィルムという物質です。
バイオフィルムは何層にも重なっていて、洗浄剤だけですべてを破壊するのは
困難です。
最善の対策は、ブラッシングでバイオフィルムを物理的に破壊してから、
洗浄剤を使うことです。
洗浄剤は、バイオフィルムが薄い層であるときには高い効果を示します。



<実習コーナー「今すぐできる! ラクラク口腔体操」>
食べる能力・飲み込む能力を高めるために行う口腔体操。
食べ物や自分の唾液をしっかりと食道に送り込むことができるようになる
ことで、肺炎予防の効果が期待できます。
食事の前に合計で10分程度、以下の体操を行うと効果的です。
(1)パタカラ体操
   「パタカラ、パタカラ、パタカラ・・・・・」
   「パ・タ・カ・ラ」をできるだけ早くハッキリと発音することで、
   舌や唇のスピードや、巧みさを養います。
   「パタカラ」にこだわらず、好きな早口言葉を見つけて練習するのも
   よいでしょう。

(2)舌体操
   「舌を前後、左右、上下に動かす」
   舌の力や、動く範囲を向上させる訓練です。
   少々きつく感じる程度がちょうどよいでしょう。
   慣れてきたら、早く動かすとより効果的です。

(3)唾液腺マッサージ
   「耳の下を親指以外の4本の指でもむ」
   「顎の下を親指でしっかりと押す」
   食べ物をうまく噛み、しっかりと飲み込むためには、唾液が不可欠
   です。
   この体操は、唾液を出す能力を高めるためのマッサージ。
   食事の前に行うと特に効果的です。



<まとめのガッテンタワー>
・あれっうまく飲み込めないぞ→使わないから衰える廃用症候群
・食べる筋力アップ口腔体操
・入れ歯の手入れは、1に空みがき、2に洗浄剤
・口は幸せのもと




http://cgi2.nhk.or.jp/gatten/archive/program.cgi?p_id=P20070711





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