変温化する子ども 早期の離乳食が原因

[変温化する子ども 「早期の離乳食が原因」]

(東京新聞 2005年1月31日)


子どもが“変温動物”になっている。
子どもの低体温化は以前から指摘されているが、実態は「朝は低体温、
午後には高体温」だという。
人間は恒温動物のはずだが、体の不調で体温を一定に保てなくなっていると
いうのだ。
加えて1990年以降、アトピー性皮膚炎などのアレルギー症状が急増して
いる。
こうした原因として、国が全国一律で進める育児法の誤りを指摘する声も
上がるが。
(藤原 正樹)


「1970年代中ごろから教育現場の先生の間で『子どもたちの体がおかしい』
という声が噴出し始めた。低体温化が指摘され始めたのもこのころで、状況は
どんどん悪くなっている」
日本体育大学名誉教授で「子どものからだと心・連絡会議」議長の正木健雄
氏は現状を憂える。
連絡会議は1978年から全国の教育機関約1,000校を対象に子どもの症状を
継続調査し、毎年「子どものからだと心白書」を発行している。

白書によると、平熱36度未満の低体温の小学生が6割を超え、変温動物化が
指摘されている。
小学低学年女子の起床時の体温は、4割近くが36度以下なのに、下校時にな
ると半数が37度以上になっている。
正木氏は「体温変動の振幅が大きく、恒温動物になりきれていない。すぐに
疲れを訴える例も増えている。体温調節をつかさどる自律神経がうまく発達
していない」と分析する。


一方、子どものアレルギー症状が急増したのは1990年ごろからだ。
保育・幼稚園や小中高校の先生が「最近増えていると実感する症状」の調査
では、「アレルギー」「皮膚がカサカサ」が1980年代半ばから目立ち始め、
1990年以降はトップに並ぶようになった。

実際、1998年に日本学校保健会が行った全国調査では、アレルギーと診断
されている子どもは4割を超えている。
熊本地域医療センター小児科の後藤善隆部長は「ここ数年(急激なアレルギー
症状の)アナフィラキシーを起こす子どもが増えている」と証言する。



<タンパク質は分解できず・・・>
なぜ子どもの体がおかしくなったのか。
「全国一律で進める育児法の誤りが子どもを壊している。母子健康手帳の
指導で、生後5カ月から食べさせる離乳食が変調の要因だ」と警鐘を鳴らす
のは、元東京大学医学部講師で日本免疫病治療研究会の西原克成会長だ。
「人の腸は1歳前後で完成する。それまでは母乳か人工乳だけで育てる
べきだ。早期の離乳食でタンパク質を与えると、分解できずにそのまま吸収
して抗原になり、アトピー体質になる」



<1980年に離乳ガイドライン>
西原氏によると、国内で離乳食が広がり始めたのは、早期の離乳食を薦める
『スポック博士の育児書』の翻訳本が発行された1966年からだ。
1980年に厚生省(現厚生労働省)が離乳ガイドラインを定め、母子健康
手帳で全国一律に指導し始めてから一般に定着した。
西原氏が指摘する離乳食原因説は、子どものからだと心白書でアレルギー
症状が急増した時期と一致する。

西原氏は「咀嚼できない乳児は離乳食を丸のみし、タンパク質でもばい菌の
芽胞でもなんでも吸収してしまう。その結果、本来ほとんどビフィズス菌の
腸内環境が、大腸菌ばかりに変化し、大腸菌だらけの緑便が続くようになる」
と解説し、子どもの変温動物化も離乳食が原因とみる。



<体内でばい菌繁殖し低体温>
「体内で繁殖したばい菌が細胞内感染を起こし、体温をつくり出す
ミトコンドリアがばい菌に酸素を奪われて機能せず低体温になる。変温動物化
している子どもは、慢性自家中毒を起こしている。体内をめぐるばい菌と共存
しているカエルなどと同じ状態だ。乳児期に1年も緑便状態なら、生涯に
わたって体調不良が続く危険性もある」

西原氏は離乳食がきっかけになる口呼吸も問題視する。
「母乳や哺乳瓶で人工乳を飲む乳児は口呼吸はできないが、スプーンで
離乳食を与えると口呼吸のくせがつく。口呼吸では、鼻呼吸のばい菌除去
機能が働かず扁桃組織からばい菌が体内に入る。のどが乾燥することで
ばい菌の温床になり、免疫力が壊れていく。小児ぜんそくになる子どもは、
100%口呼吸だ」。

ピジョン常総研究所の2001年の全国調査では、3歳〜13歳の43・8%が口呼吸
だった。


母子健康手帳では、3〜4カ月から離乳食準備として、薄めた果汁やスープを
飲むことを薦めている。
西原氏は「みそ汁の上澄みにもタンパク質があり、果汁にも酵素(タンパク
質)がある。離乳食と同じくアトピー体質の原因になる」と切り捨てる。



<果汁やスープ時期早すぎる>
早期の果汁やスープは、世界の常識にも反するという。
米国の小児科学会は1997年、「生後6カ月までは母乳または人工乳だけを
与え、水や果汁その他の食物を与えるべきではない。離乳食を早く始めると、
乳児がアレルギーを起こす可能性が高くなる」と警告している。
世界保健機関(WHO)も同様の見解を発表している。


宮城県立こども病院の堺武男副院長は「乳児が鉄分を吸収するためには
ビタミンが必要だ。昔の人工乳にはビタミンが含まれておらず、果汁補給は
意味があったが、今の人工乳はビタミンも補給できる。母子手帳の果汁指導は
無意味だ。アレルギーの原因にもなる。離乳食で5カ月から卵を食べさせる
のも早すぎる。1歳以降にすべきだ。赤ちゃんの腸は大人と違い、タンパク質
摂取には気を付けた方がいい」と母子手帳の指導を批判する。

さらに「乳児にも個人差があるのに、母子手帳では『〇カ月で〇〇を』と強制
してくる。まじめなお母さんは『ウチの子は遅れている』と悩む例が多い。
育児不安を解消すべき母子手帳が、育児不安を増強する結果になっている」。



<行政不変なら企業側動かず>
西原氏の批判に賛同する声は多い。
大手育児用品会社の研究員は「西原先生の理論は筋が通っていて分かり
やすい。子どもの体の変調は深刻で、国が全面的に西原先生の考えを受け
入れれば、状況が変わるのではないか」と期待する。

が、一方で「日本のお役所は何事につけ、1度決めたことは変えない体質が
ある。子どものためを第1に考えたいが、国が方針を変えてくれないと、
営利企業は動けない。現状を変えるのは難しい」と悲観的だ。


西原氏は過去に3度、厚労省幹部に離乳食の廃止を訴えた。しかし、幹部らは
「先生の意見はよく分かるが、離乳食で利益を得ている人が多く、方針を
変えるのは資金がかかりすぎる。1度決めたことは動かせない」と話したと
いう。


西原氏はこう警告する。
「子どもの変温動物化と少年犯罪の凶悪化はリンクしている。体の不調が
強いストレスになり、キレやすくなっている。性問題の低年齢化も早期発情が
原因だ。動物は体が弱り生命の危機を感じると、子孫を早く残そうという
本能が働く。早期の離乳食をやめ、戦前から昭和40年ごろまで行われていた、
1歳まで母乳・人工乳中心の育児に戻すべきだ。育児法とは、医学ではなく
伝承。哺乳動物として自然にかなった育て方が正しい」


(雑誌「致知」 2003年4月号)
「いまの育児法では日本は崩壊する」 西原克成





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