自動車ホイールアライメントと交通事故

[自動車ホイールアライメントと交通事故 ] <目次> (1)ホイールアライメント (2)車検時サイドスリップの罠 (3)リアのトーインで直進姓が決まる (4)リアのトーインと交通事故 (5)4輪アライメント計測装置の疑問 (6)スポーツ走行時のアライメント設定 ————————————————– (1)ホイール アライメント (1−1)キャスター タイヤを横から見た場合、サスペンションがどのくらい傾いているかの角度 です。 キャスターに限っては通常フロントのキャスターを指します。 一輪車のサドルを持って押す場合、垂直の状態ではなかなか真っすぐに 押せませんが、サドルを斜め後ろから押せば真っすぐに押しやすくなります。 このキャスター角は一般的には調整できません。 調整可能な車には、テンションロッドがある車(AE-86など)や、一部の外車 (キャスター調整ネジが付いているもの)などがあります。 メルセデスベンツはこのキャスター角がかなり大きく、直進安定性を優先した 設定になっています。 (1−2)キャンバー タイヤを車の前・後から見た時、「ハの字」になっているか、「逆ハの字」に なっているかの状態を示す角度です。 「ハの字」の状態がネガティブ・キャンバー(ネガキャン)、「逆ハの字」の 状態がポジティブ・キャンバー(ポジキャン)です。 標準サスペンションでこのキャスターが変更できるのは、一部の車種です。 (1−3)トー トー或いはトーインとも言います。 タイヤを上から見た時に、前開きになっているか、後開きになっているかの 状態を示す角度です。 前開きの状態がトー・アウト、後開きの状態がトー・インです。 フロントのトーは調整可能になっていますが、リアのトーを調整できるのは 一部の車種です。 (2)車検時サイドスリップの罠 車検の項目の中にサイドスリップの測定があります。 簡単に言えば前輪のタイヤの角度(トー)を測定する検査です。 車の後輪タイヤは平行についているとみなしています。 前輪タイヤには、車種によって少し角度がつけてあります。 縁石やキャッツアイにタイヤをぶつけただけでも、角度が狂うことがあり ます。 この角度が規定外であると車検に通らないのですが、測定するにはサイド スリップテスターと言うもので行います。 縁石やキャッツアイにタイヤを引っ掛ける力は、基本的に全てフロント タイヤをトーアウト方向に狂わせます。 トーイン方向に狂うことは極く稀れなことです。 ハンドルが取られる感じがする場合は、前輪のサイドスリップの調整が必要で あると言うのが車検の考え方ですが、本当に前輪のトーインが狂っていると ハンドルが取られるのでしょうか。 右前のタイヤがトーイン±0度、左前のタイヤがトーアウト1度(前開き)の 車があったとします。 この状態で走り始めると、最初車はやや左へ曲ります。 しかし、フロントタイヤはハンドルを切ることによって動きますので、 ハンドルを若干右に回せば、結局は左右共に0.5度ずつトーアウト、 左右合計1度(前開き)の状態で安定し、車は真っすぐに走ります。 ハンドルの正中は微妙にズレて気持ち悪いかも知れませんが、手を放しても 真っすぐに走ります。 (3)リアのトーインで直進姓が決まる これに対して、リアのトーインがズレている場合には、車は真っすぐに 走りません。 右後のタイヤがトーイン±0度、左後のタイヤがトーアウト1度(前開き)の 車は、左後のタイヤが外側へ行こうとするため、車のリア(テール)は左へ 行きたがり、相対して車のフロントは右へ向きます。 従って、ハンドルを常に左に切らないと直進しません。 フロントのトーインが狂っている場合には、ハンドルを修正した後手放しを しても直進しますが、リアのトーインが狂っている場合には、常にハンドルを 修正し続けなけらばなりません。 手放し運転をした時に真っすぐ走らない主原因は、このリアのトーインの ズレが問題なのです。 しかし、このリアのトーインを測定することはまずありません。車検時に測定 しないばかりか、新車納入時にズレていることも多々あります。 ハンドルを取られるのでディーラーに点検を依頼したら、「道路はカマボコ 状に凸になっているのでそれが原因です。」などと訳のわからない説明を 受けた人も多いことでしょう。 広い駐車場で走らせても直進しなければ、リアのトーインがズレているのは 明らかです。 リアのトーインを調整できない車が結構あります。 調整できないと言うことは、一見狂わないはずですが、実際にはリアの ホーシング(駆動系一式)自体が歪んで、トーインがズレてしまうのです。 縁石などにリアタイヤをぶつけることにより、トーアウト方向へ開いて 行きます(フロント同様)。 新車で真っすぐに走らないと言うのは、リアのホーシングの製造エラーか 組付けエラーの可能性があります。 新車納入時に直進しない車をディラーに持込んで、リアのホーシングを 引っ張って調整してもらった人の話も耳にします。 (4)リアのトーインと交通事故 走行中の前走車を見ていると、1/4〜1/3の車は大なり小なり真っすぐに走って いません。(リアのトーインがズレています) 斜めに走っているような車の場合、タイヤの片減りは著しいですし、ホイール (ハブ)への負荷が増大します。 これが乗用車でなく、大型バスやトラックで生じた場合、さらに大きな トラブルを引き起こすことは容易に想像できます。 1トンの乗用車と比較した場合、12トンのダンプカーに12トンの荷物、 さらに過積載6トンがある車を考えた場合、重量比30倍、あるホイールの 単位面積当りの負荷は、二乗になって900倍にもなります。 乗用車の900倍の強度のホイールハブを設計できるのかは、素人には想像も つきません。 タイヤ脱落事故の何割かは、このアライメントの狂いが原因であるとする 専門家もいます。 もちろん、乗用車でもタイヤ脱落事故は起こりえます。 上記(3)の車の場合(右後のタイヤがトーイン±0度、左後のタイヤが トーアウト1度の車)、車のフロントは右に行きたがっていました。 この状態でコーナー(カーブ)を曲がると、右コーナーでは曲がりやすく感じ (オーバーステア的感じ)、左コーナーでは曲がりにくく感じ(アンダー ステア的感じ)ます。 そして、高速道路の連続下りカーブ、しかも雨、さらに急ブレーキを 踏まなければならない状況では、右カーブでは車がクルリと回転してスピン して中央分離帯に激突する可能性があります。 逆に、左カーブでは、ハンドルを切っている程には車が曲がってくれず、 カーブを曲がり切れずにやはり中央分離帯に激突する可能性があります。 中央高速上り線の上野原IC付近の連続下りカーブを代表とする高速道路下り カーブで多発する大事故の何割かが、アライメント不調整が原因ではないかと する専門家もいます。 (5)4輪アライメント計測装置の疑問 最近では、高価高性能の4輪アライメント計測装置を導入するショップが 増えてきました。 ディーラーから新車の持ち込みもあるようで、ようやくディーラーも新車でも 真っすぐに走らない車があることに気が付いてきているようです。 しかし、この4輪アライメント計測装置も正しい測定ができる物が少ないのが 現状のようです。 4輪アライメント計測装置は非常に大型・大重量ですので、地盤沈下によって 狂ってきてしまいす。 設置に際しては、地盤補強を行っている所が多いと思われますが、それでも 地盤沈下は起こるようです。 さらに、計測装置自体の調整が継続的に必要との話です。 4輪アライメント計測製造メーカーの営業マンが退職して、アライメント 計測のショップを始めました。 大手チェーン店のアライメント測定装置取扱いの講師として招かれるほど 機器に精通してして、ディーラーから新車の持ち込みも多い所ですが、 それでもアライメント計測結果にかなりの狂いがありました。 依頼した設定と車の挙動にズレがあるため、判明しました。 ですから、人力による計測が今のところ最も信頼できることになります。 例えば、世界ラリー選手権(WRC)では、特殊トレーラーに水平器をつけて 水平を出し、その上で人力でアライメントを計測・設定しています。 ボディーの左右の中央部下側(Bピラーの根元フロア面)に基準点があり、 そこから前後左右のタイヤのアライメントを測定し調整します。 この方法を市販車に応用できるように開発されたのが、「メープルA-1 ゲージ」です。 (6)スポーツ走行時のアライメント設定 (6−1)キャンバー ネガティブキャンバー(ネガキャン/ハの字)の方が、コーナーで踏ん張れ ます。 コーナーで車がロールした場合に、アウト側(外側)のタイヤが垂直に接した 方が、安定するだろうことは容易にイメージできます。 メルセデスベンツやBMWのスポーツカーは、リアにより多めのキャンバーが ついていて、ハイパワーのグレードになればなる程、リアのキャンバー角が 大きくなります。 国産のFRスポーツカーも近年ではこれにならい、リアにより多めのキャンバー がついています。 FRのハイパワー車はコーナー脱出時アクセルオンでテール(リア)が出やすい ので、テール(リア)が出過ぎないようにリアにより多めのキャンバーが ついています。 逆にFFはフロントにより多めのキャンバーがついています。 コーナーでの操舵と駆動とをフロントタイヤが分担するため、基本的に アンダーステアであるためです。(FF車のリアは調整できない車が多いです) 昔の国産車はかなり大きめのポジティブキャンバー(逆ハの字)がついて いました。 これは、サスペンションが軟らかい上に、フル乗車で未舗装路(砂利道)を 走るのを前提に設定されていたためです。 サスペンションが大きく沈み込むとポジティブキャンバー側→ネガティブ キャンバー側へ変化しますので、最も沈み込んだ時にタイヤが垂直になる ように設定されていました。 また、フロントにより多めのポジティブキャンバーをつけて、フロントの 限界をわざと低くし、ドライバーに限界を知らせるためです。 現在でもRV車には、横転防止の警告の意味も含めて、比較的大きめの ポジティブキャンバーがついています。 世界ラリー選手権(WRC)で最もハンドリングが良い車と言われているスバル インプレッサWRCは、前後とも2度のキャンバー(ネガキャン)が基本だ そうです。 もちろんコース状況や、デフのセッティング(マッピング)によって変わって きます。 これに対して、フォードフォーカスWRCはフロントに多めのキャンバーが ついています。 若干ボディーベースではアンダー傾向であることが推測できます。 しかし、昨年登場したWRC2003モデルよりハンドリングが改善され、 キャンバー角が減少してきています。 シトローエンクサラWRCも同様で、2002年度は フロントに多めのキャンバー がついていましたが、2003年モデルになって、キャンバー角が減少しま した。 (6−2) キャスター:各メーカーやショップから市販されているサスペンションキット (スプリング&ショック)でも、キャスターを変化させることはまずできま せん。 一部のショップでは、Aアーム(ロアアーム)を自作するなどして調整して いる所もあります。 (6−3)トー フロントのトーインは0(ゼロ)と言うのが基本のようです。 しかし、若干トーアウトの方が回頭性が良くなると言う話もあります。 若干トーアウトの状態では、左前のタイヤは左に行きたがっていて、右前の タイヤは右に行きたがっているのを打ち消しあって直進しています。 ハンドルを左に切って、右前のタイヤがトーアウト→0(ゼロ)に向った 瞬間、右側に行こうとしていた力がキャンセルされ、左前のタイヤは益々 左へ行きたがるので、車は左側に回頭すると言うのが、この説の根拠です。 (まだロールが発生していない前の段階での応答性の話です) リアのトーは、車の回頭性に最も影響を及ぼします。 回頭性を良くするには、トーアウト設定、ドリフトを止めるにはトーイン設定 です。 最も曲がりにくい4WD車が低速ツイスティーコースを走る場合には、 トーアウトを多めに、最も曲がりやすいFR車が高速コースや滑りやすい路面 (雨やダートコース)を走る場合には、トーイン設定にと言うように、 車の性格や走るコースによって調整が必要です。 <参考文献> ・芸文社:雑誌プレイドライブ ・フロム出版:トータルバランス快速チューン ・山海堂:雑誌RALLY Xpress ・ニューズ出版:ハイパーレブ チューニング&ドレスアップ徹底ガイド (文:横山哲郎)
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